公開日:2018/1/9
タブレットを活用して解答法を共有。理解がよりスムーズになり、授業に一体感も
2020年に向けたICT環境整備
―東京都―
荒川区立第九中学校
荒川区立第九中学校は、荒川区教育委員会が推進する「学校パワーアップ事業」をリードする中学校である。区の方針として各校の裁量を重視しているが、同校は特にICTの活用において、全校を挙げたレベルアップに努めている。そこには水井雅史校長の力強い推進力があったからにほかならない。3年生の数学の教室を訪ね、一人1台利用しているタブレットを十分に活用した授業の様子を取材した。
タブレット活用事例
【3年生・数学】「二次方程式の利用(動点問題)」
例題
右の図のような正方形ABCDで、点Pは、Aを出発して辺AB上をBまで動きます。
また、点Qは、点PがAを出発するのと同時にDを出発し、Pと同じ速さで辺DA上をAまで動きます。点PがAから何cm動いたとき、△APQの面積が3㎠になりますか。
授業冒頭からタブレットを活用
問題に集中
3年生の数学では、習熟度別にクラスを2つに分け、約20人という少人数で授業を展開している。今回の授業では「二次方程式の利用(動点問題)」について、タブレットを活用して学習した。
授業の冒頭で、藤原瑠美子先生は生徒たちに「タブレットを使って、点Pを動かしてみよう」と指示をする。生徒たちはタブレットにスムーズに問題の図形データを取り込み、自分で操作して点Pを動かし、例題の確認をする。
授業前半の例題の問いは、
⑴△APQの面積が3㎠になるときに、点Pが動いた長さを予想してみよう。
⑵AP=x㎝のとき、QAは何㎝になるか求めなさい。
⑶P、Qが同時に出発してからx秒後の△APQの面積を、xを使って表しなさい。
⑷△APQの面積が3㎠になるときの、点Pが動いた長さを求めなさい。
の4つだった。
授業冒頭の指示には、タブレット上で点Pを動かしても簡単に答えを導き出せないことや、いろいろと点Pを動かすことで解答が2つあるかもしれないということを、生徒たちに気づかせるねらいがあった。
藤原先生は「面積が3㎠になると予想した時の点Pの位置を、周りの人と見比べてみよう」と指示をして、生徒たちのタブレットを見て回る。
予想はできるが明確な解答が分からないため、生徒たちはさらにタブレットの操作に集中し、隣や前後の席の生徒とタブレット画面を見比べながら、問題についての意見交換をする。タブレットを介することで、クラス内のコミュニケーションが活発化するのである。
藤原先生は、自身のタブレットの画面をスクリーンに映し出すと、タブレットを操作して図形を動かし、生徒とともに検証しながら授業を進める。生徒たちは、自分の手元の図形と、スクリーンの図形の両方を見ながら問題を解く。先生と生徒たちがひとつのスクリーンを見ながら一緒に問題を解き進めることで、一体感も生まれていた。
全員で確認するマクロな授業と、個々に応じたミクロな授業
「△APQの面積(㎠)を求める」問いに対して、藤原先生は多くの時間を割いて生徒たちのタブレットを確認し、一人ひとりの疑問やつまずいているポイントを把握した上で、必要に応じてアドバイスをする。生徒たちは自分のタブレットで図形を操作し、時に点Pを止めて確認しながら、面積を導き出していく。
先生は、「はい。では、ここで確認してみよう」と、いったん生徒の手を止めさせて、検証すべき事柄を提示する。同時に、ここまでの解答につまずいている生徒のフォローもする。
そして、xの定義や最小値と最大値などについて質問しながら、全員で解答を明確にしていく。何人かの生徒は、先生や他の生徒の話を聞きながら、何かを思いついたようにタブレットの操作を始める。気づいた時に個々で検証することができるのも、タブレットが一人ひとりの手元にあるからだ。
さらに藤原先生は、生徒たちが自分のタブレットに書いた解答や図形を、カメラ機能を使ってスクリーンに映し出し、クラス全体で共有しながら検証した。これにより、どの生徒がどこまで理解しているかをすぐに把握することができ、理解できていない生徒にはすぐに適切なアドバイスをしたり、ヒントを与えたりすることもできる。生徒の理解度を見極めながら、全体としての授業を進めていくことができるのは、タブレットを活用した授業の大きなメリットと言えるだろう。
ICTをフル活用するための教員向け校内研修を重視
同校は1年3学級、2年2学級、3年1学級で全6学級。全6教室と図書室に電子黒板が備えられ、タブレットは一人1台用意されている。ICT活用を進めるために同校が重視しているのが、校内での独自の教員研修だ。教員がタブレット使用時の疑問や不安を出し合い、悩みを共有するほか、ICT支援員を交えたディスカッションを通して不安を解消していく。
新たにソフトウェアを導入する際には、ICT支援員が教員役、同校の教員陣が生徒役となり、実際に生徒画面を体験することでソフトウェアの機能を学び、授業での活用方法を考える。生徒がタブレットを使う場面は、主に「調べ学習」「ドリル学習」「プレゼンテーション」だが、授業時間以外での積極的な活用を促すためにも、生徒に使わせる前に教員が使いこなしておく必要がある。「機能を知ることと使えることは別です。機器に振り回されてしまう場面もありますが、そこを乗り越えて、使いこなしていかなければなりません」と水井雅史校長は語る。
同校が今後めざすのは、ポートフォリオ機能の活用だ。生徒は、自分の成績の推移などを客観視し、自分を見つめ直すきっかけにする一方、教員もそのデータを把握することで、さまざまな生徒に応じた指導方法の改善につなげてほしいのだと言う。水井校長は、ポートフォリオに表示される数値などに一喜一憂するのではなく、励みにしたり、周囲とのコミュニケーションの材料にしたりしてほしいと考えている。