教職大学院の教員養成。教育現場で生かせる学びを提供し、卒業後も成長を続ける教員を養成

2020年に向けた教員の養成

―長崎県―
長崎大学大学院

長崎大学大学院教育学研究科では、教職大学院として教育現場で活用できる実践的な学びを提供することに努めている。その工夫について、同大学大学院 教育学研究科の本多博准教授に語っていただいた。

研究者教員と実務家教員が教え、「実践と理論の往還」を図る

長崎大学 大学院 教育学研究科
本多 博准教授

 長崎大学が教職大学院を設置したのは2008年のこと。時代に即応した教員養成に特化した専門職大学院として、実務の世界で中核的、指導的役割を担うスクールリーダーを養成することを目的としている。

 「教育学部や教育学部以外の学部を卒業した大学院生も、現職教員の大学院生も、教職大学院に入学してくる人たちはみな、『教育現場で生かせる知識や技術を習得したい』という意欲を持っています。しかし、かつての講義は、研究者教員による理論に偏った講義が中心で、大学院生たちが求める内容に応えることのできる教育にはなっていなかったのです」と本多博先生は振り返る。

 そこで、長崎大学は改革に着手し、実践的な学びを実現するために、指導体制を改めた。従来は、教育研究を手がける「研究者教員」が中心に講義を進めていたが、教員として教育現場を経験した「実務家教員」を増員し、「研究者教員」と「実務家教員」とのティーム・ティーチングによる講義を大幅に増やしたのだ。本多先生も、中学校教諭や指導主事、中学校教頭などを歴任し、昨年度同大に赴任した「実務家教員」である。文部科学省は、「教職大学院教員の4割以上が実務家教員であるのが適当」との指針を示しており、同大はこの指針の達成を目指している。また、実務家教員の経歴も、元学校長や指導主事経験者などさまざまであるほか、小・中・高すべての校種出身者がそろっている。

 「教育理論を専門とする研究者教員と、教育現場での理論の生かし方を知る実務家教員が協力することで、お互いの強みを生かした講義を実現することができます」と、本多先生は説明する。

「理論だけを学んでも、実践が伴わなければ教育現場には生かせません。一方で、理論がないまま実践を行っても、方法を誤ったり、目指すべき方向が見えなくなったりします。そこで、実践を理論づけることで、目指すべき方向が明確になって改善しやすくなり、その理論を他の授業や指導にも応用することができるようになるのです」

 実践しながら理論も学び、学んだ理論を実践に反映するという「実践と理論の往還」を図ることが大切なのだと、本多先生は強調する。

 たとえば、「地域の特徴と教育の実際」という講義においては、講義の前半に「地域学習や地域と学校の連携・協働」に関する理論を学び、後半に理論に裏付けられた実践的な方法(学校図書館を活用した地域の調べ学習等)を学ぶ。多くの講義は、研究者教員と実務家教員のティーム・ティーチングによって進められる。

省察しやすい環境も整えている。グループごとに、プロジェクターやホワイトボードを完備。授業の様子を撮影した動画を見ながら、省察を進めることもある。

自ら学ぶ方法として「省察」を修得し、成長し続ける教員を養成

 とはいえ、実践や理論を「教える」だけではないと、本多先生は言う。

 「教職大学院の使命は、『自ら成長し続ける教員』を養成することだと考えています。ただ教えるだけでは、在学中は伸びるかも知れませんが、卒業後に成長が止まってしまうかもしれません。教職大学院は『教わる場』ではなく、『自ら学ぶ場』なのです。自ら学び続ける教員になるために、ここでは『自ら学ぶ方法』も教えています」

 その最たる例が「省察」である。これは、実践や観察をした授業や指導を、振り返り、言語化する活動である。この「省察」を、さまざまな講義で取り入れている。

 たとえば、教育実習で省察をする際には、グループ内で問いかけと応答を繰り返す。「なぜここであなたはこの発問をしたのですか?」との問いかけにしっかりと答えることで、「自分がしっかりと意図を持って発問していたか」、「どのような意図で発問したのか」、「その意図で正しかったのか」、「意図に沿った発問になっていたか」「授業者と学習者の間にズレはなかったか」など、自ら確認することができる。このような省察に重要な問いを、Korthagenは「8つの問い」としてまとめている。

 本多先生は「そのプロセスの中で、自身の教育観や児童・生徒観、指導観などが磨かれ、確かなものになると思っています。それはとても難しい作業ではあります。しかし、こうした作業の積み重ねが、学生たちの授業者としての成長を支えているのです」と説明した。

 実践を振り返ることによって課題や問題点を明確にした後は、改善策を考え、実践と省察を繰り返していく。これは「ALACTモデル」と呼ばれる経験を通した学びのプロセスで、実践と省察を繰り返すことで、授業や指導上の課題や改善点に気づき、自らの授業や指導の具体的な改善までを見通したモデルである。

 「優れた先生は、こうした省察を無意識に自分の中で行い、授業や指導を向上させていると言われています。教職大学院で省察を繰り返し、その方法を身につけることで、卒業後に携わる教育現場においても、自分で授業や指導方法を改善し、成長を続けられるようになってほしいのです」と、本多先生は語った。


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