公開日:2018/1/9
子供たちの学習意欲が高まり、「対話的な学び」が活性化!
今から始めるタブレット
―神奈川県―
相模原市立共和小学校
タブレットPC初心者である坪田沙織先生が、タブレットPCの活用方法を一から学ぶ連載企画の後編。タブレットPCの簡単な使い方や授業計画への取り入れ方など、相模原市教育委員会の講習を受けてから約4か月が経過し、坪田先生の授業はどのように変化したのだろうか。
1. この4か月間で学び、実践してきたこと
まずは、フラッシュ型教材でタブレットPCに慣れた!
4か月前までは、タブレットPCに触ったことさえなかったという坪田沙織先生。研修後の授業でどのような実践を重ねてきたのだろうか。
「まずは、フラッシュ型教材から使い始めました。とても簡単で、私でもできそうでしたし、子供たちにタブレットPCを使わせる前に、まずは私自身が慣れようと思ったのです」
坪田先生は、社会科の授業で、教師用タブレットPCに入っているチエルのフラッシュ型教材『小学校のフラッシュ 基礎・基本』を使い、都道府県名を覚える活動をさせてみたところ、先生自身も問題なくタブレットPCを活用することができたと話した。
「私でもタブレットPCを使えるんだ!とうれしくなって、社会科だけでなく国語科や算数科の授業でも使うようになりました。フラッシュ型教材のおかげで、タブレットPCへの苦手意識を払拭でき、自信がつきました。短時間でポイントを復習でき、繰り返し練習することで定着を図ることができる、というフラッシュ型教材の効果も実感しました」
次に、既存の授業計画にタブレットPCを組み込んだ
その後は、相模原市教育委員会の指導主事に相談をしながら、タブレットPCを使った実践を考えていったと、坪田先生は振り返る。
「相談と言っても、授業づくりに関する相談がほとんどです。ICTの操作方法や使い方などは、最初の研修で教わった基礎的なことで十分でした」
その過程で、坪田先生はタブレットPCを活用した授業づくりのコツをつかんでいった。タブレットPCを使っての授業計画を新規に立てるのではなく、既存の授業計画にタブレットPCを取り入れればいい、と悟ったのだ。
「タブレットPCを活用した授業を新たに計画するのは大変ですし、そもそもタブレットPCを使うことが目的になってしまって、本来のねらいから外れてしまいそうだと感じたのです。そこで、授業計画は従来のままに、紙のワークシートや実物投影機で行っていたことをタブレットPCに置き換えてみようと考えました」
坪田先生は、この方法であれば、もしタブレットPCがうまく使えなかったり、故障したりした場合でも、紙のワークシートや実物投影機に切り替えれば授業を止めずに進行できるとも考えたそうだ。
2. 4年算数「箱の形を調べよう」では…
フラッシュ型教材で前時の復習
デジタル教科書や紙の教材も活用
4年算数「箱の形を調べよう」の単元で、坪田先生はまず『小学校のフラッシュ 基礎・基本』を使用して前時の復習を行った。
「今日の授業である『直方体の展開図』の学習をする前に、前時に習った立方体についてフラッシュ型教材で復習し、面の形や大きさなど、今日の学びのポイントとなる内容をしっかり確認させました」
坪田先生はさらに、最近使い始めたというデジタル教科書も使って、立方体の展開図を描く復習を行った。大型テレビに表示された方眼シート上には6枚の正方形が並ぶ。指名された子供は、これらを画面上で動かして、立方体の展開図を作成した。画面のスタートボタンを押すと、展開図が折りたたまれ、立方体ができあがる。デジタル教科書ならではの便利な機能だ。
「算数が得意な子は、展開図を見ただけで頭の中で立体を組み立てられますが、多くの子供は2次元の展開図から3次元の立体をイメージするのが苦手です。そのような子供たちのためにICTでわかりやすく説明する方法はないかと相談してみたところ、デジタル教科書にアニメーションの機能があることを教えていただいたのです」
ICTだけでなく、坪田先生は手作りの立体模型も使って説明した。直方体の6つの面が磁石で着脱できる模型を用い、直方体から面を1枚ずつ取り外しては黒板に貼り付け、展開図を作って見せた。まずデジタル教科書を活用して展開図から立体になる様子を見せ、ここでは逆に立体から展開図になっていく様子を立体模型を使って実演することで、算数が苦手な子供でも理解しやすくなるそうだ。
ノートや紙の教材を使って、個別に展開図を考える
続いて坪田先生は、「ノートに直方体の展開図を書きましょう」と指示する。初めからタブレットPCを使うのではなく、まずはノートで個別に考えさせることを大切にしているのだ。
早速、ノートに何種類もの展開図をスラスラと書く子供もいれば、考え込んで手が止まってしまう子供もいる。その様子を見て、坪田先生は「わからない人は、いつものようにヒントカードを用意しているので使ってね」と声をかけた。
ヒントカードとは、坪田先生が自作した紙の教材だ。方眼紙上に、3種類の長方形がそれぞれ2枚ずつ、合計6枚書かれている。何人かの子供はこのヒントカードからハサミで長方形を切り取り、セロハンテープで貼り合わせて展開図を作っていった。
「切ったり貼ったりしながら手を動かして展開図を考えるようにすると、算数が苦手な子供でも立体と展開図の関係をイメージしやすくなるのです」と、坪田先生は説明する。
グループに1台のタブレットPCで対話しながら展開図を考える
「では、5人1組で班になってください。グループでタブレットPCを使って、直方体の展開図を描きましょう」
坪田先生がそう呼びかけて子供たちのタブレットPCに方眼シートを送信すると、子供たちは額を寄せ合い、すぐに作業を開始した。
「同じ面が向かい合うようにしないとダメだよ」「こことここの辺がくっつくんだから、同じ長さにしなきゃ」と、子供同士で活発に対話しながら展開図を描いていく。
5人に1台しかなくても、子供たちは上手に役割分担してグループ学習を進めていた。タブレットPCを操作して展開図を描く子供、その子に対して自分のノートを見せながら指示する子供、描いている展開図が正しいかどうかヒントカードを切り貼りして確かめる子供もいた。
「まっすぐに辺を描かないと直方体にならないから」と、タブレットPCの画面に定規を当てて、直線を書く姿もあちこちで見られた。子供たちはノートと同じ感覚でタブレットPCを使っている。
すると、作業に没頭していたある子供が、急に顔を上げてつぶやいた。「あ! あの班はあんな展開図を描いてる!」
その視線の先には大型テレビがあり、すべての班のタブレットPCの画面がリアルタイムで一覧表示されていた。授業支援システム『らくらく先生スイート』(34参照)の機能の一つだ。その画面を見て、子供たちは他の班の途中経過を参考にしつつ、「どこの班も思いついていない展開図を考えよう!」と意気込んでいた。
考えた展開図を発表し最後にポイントを考える
展開図を描き終えると、各班の発表に移った。子供たちは、自分たちが考えた展開図を大型テレビに映して見せるだけでなく、デジタル教科書上で同じ展開図を描いてスタートボタンを押し、直方体になることも証明していた。
「では最後に、直方体の展開図を描くポイントをグループで話し合って発表してください」と坪田先生が指示すると、子供たちからは次々と意見が出てきた。
「同じ形の面が向かい合うようにする」、「そのためには、同じ形の面が隣り合わないようにする」、「どの辺とどの辺がくっつくのかを考え、辺の長さが同じになるようにする」
授業を通して、子供たちは直方体の展開図のポイントをしっかり理解できていた。
3. タブレットPCの良さと活用のコツ
他の班の途中経過を見られることがとても良い刺激になっている
坪田先生は、タブレットPCならではの良さについて、「各班の途中経過を一覧表示し、みんなで共有できること」だと感じている。
今まではノートやワークシートに考えをまとめた後に実物投影機で映してみんなで共有していたが、これでは途中経過を見ることはできなかった。しかし、タブレットPCを使うことで途中経過も共有できるので、子供たちは、他の班の考えに刺激を受けて、より良いものを作ろうと意欲的に取り組むようになったという。
「教師にとっても、すべての班の途中経過を把握できることは効果的です。今までは、一番困っている班への指導にかかりきりになってしまい、他の班の様子を把握するのが難しかったからです。しかし、タブレットPCであれば、すべての班の途中経過を把握できるので、困っている班を見つけてすぐに指導に入ることができます」
タブレットPCを使うことで対話的な学びが活性化する
タブレットPCを使って展開図を考える活動では、子供同士で積極的に教え合ったり、考えを述べ合ったりする姿が多く見られた。
「タブレットPCは、『主体的・対話的で深い学び』を促すと感じています。紙でも同様の作業はできますが、タブレットPCを使うことで子供たちは高い学習意欲を持って対話を進めますし、他の班の途中経過を見て刺激を受けることで、話し合いも活性化しています」と坪田先生は語る。
また、対話的な学びによって、子供たちは相手との共通理解を図るために、積極的に算数用語を使うようになる。「算数では、『平面』『直角』『向かい合う』といった算数用語を理解し、正確に使うことが求められます。このような対話的な学びの中で算数用語を使うことで、理解がより深まり、定着していくのです。そして、対話をすることによって、自分の考えが整理され、言語化され、理解が深まっていきます」と述べる坪田先生。授業でも、子供たちは直方体の展開図を正確に理解していた。
そして、グループで対話的な学びを行う際には、「いきなりグループ学習に入るのではなく、まずは個別学習を行うのが良い」と坪田先生は考える。
「いきなりグループ学習に入ると、他人の意見を聞くだけの消極的な子供が出てしまい、話し合いも活性化しません。まずは、個別学習で一人ひとりが自分の意見を持った上でグループ学習にのぞむことで、議論が活性化し、良い学び合いになるのです」
グループ学習の後には、学んだことを全員で確認することで、学習内容の定着を図ることが大事だとも、坪田先生は話した。
タブレットPCをもっとほしい!
これまで「タブレットPCを使う必要性を感じない」と消極的だった坪田先生は、実践を重ねるうちに「タブレットPCをもっとほしい!」と要望するまでに意識が変わった。
「タブレットPCを活用することで、より子供にとってわかりやすい授業、子供同士で学び合える授業をできるようになりました。従来の授業計画にタブレットPCを取り入れただけであっても、子供たちの学習意欲が高まり、対話的な学びが進むといった効果を実感しています」
共和小学校では、坪田先生に刺激を受け、校内の先生方にもタブレットPC活用の動きが広がろうとしている。