仙台市ですべての市立小・中学校にタブレット端末を導入! 仙台の子供たちに、〝未来を生き抜く力〟を

2020年に向けたICT環境整備と活用 〈教育委員会〉

仙台市教育委員会

教育委員会と現場の教員が一体となって「学校教育の情報化」に取り組む宮城県仙台市。2017年度からの5年間で、すべての市立小・中学校にタブレット端末を導入する事業がスタートした。初年度には小学校40校に40台ずつ導入され、授業でも活用が進んでいる。どのように整備を進め、活用を推進しているのか、同市の教育委員会を訪れ、学校教育の情報化への取り組みについてお話を伺った。


教育センターを中心に教員が活発に実践研究を行う

 宮城県仙台市では、国の「第2期教育振興基本計画」に基づいて、教育環境整備項目の中に『ICT教育環境の整備・充実』を掲げ、その実現に向けて取り組んできた。仙台市教育委員会教育指導課情報化推進係の大内司朗指導主事は、「新学習指導要領に示されている学習の基盤となる資質・能力としての情報活用能力の育成、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善のためにも、ICTを活用した教育の推進に向けた環境整備の必要性を強く感じています」と述べる。

 仙台市が目指すのは、ICT機器を適切かつ効果的に活用することで、児童生徒が問題を解決したり自分の意見を形成したりといった情報活用能力を身につけることだ。情報化が急速に進展する世の中においては、未来を生き抜く力を身につけさせることが目的だという。

 仙台市では学校教育における情報化を、教育指導課と教育センターの強い連携のもとで推し進めてきた。

 ICT環境整備については教育指導課情報化推進係が、ICTを活用した学校教育の研究・普及については教育センターの企画情報班が担っている。

 教育センター内には、1999年度に「情報教育研究推進委員会」を設置。2010年には「教育の情報化研究委員会」と名称を改め、「情報教育」「ICT活用」「校務情報化」、さらに2017年度に発足した「プログラミング教育」の4つの部会に分かれ、各部会が有識者の指導のもとに実践研究を進めている。市立小・中学校の校長や教頭、教員ら21名が研究委員として委嘱され、実践研究に取り組んできた。その活動や研究成果は「活動報告書」にまとめて年1回発行しており、すべての教員に配付するほか同委員会や部会のホームページでも公表している。

機器操作と授業での活用
両面を研修でサポートする

 教育センターでは年1、2回、市立の小・中学校・高等学校のすべての教員を対象に、ICT活用をテーマにした研修を開催している。有識者によるタブレット端末などのICT機器の有効活用法や、授業での活用事例の紹介、参加者同士の意見交流などを通して、学び合いの場となっている。

 教育センター企画情報班の坂本新太郎指導主事と木村昌宏指導主事は、「先生方の意識は非常に高いです。来年度は、10年経験者の法定研修をはじめ、職能別研修でも情報活用能力の育成を目標にした研修を行います。また、教員だけでなく、事務職員を対象にした操作体験研修も検討しています。既存の研修も、教育現場のニーズにより合ったものにモデルチェンジしていきたいと考えています」と話す。

 また、研修に参加した先生方へのアンケートによると、今後どのような研修を受けてみたいかという項目で「ICT活用」を挙げる先生が年齢を問わずに増えているという。それだけニーズが高くなっており、機器操作と授業での活用の両面で、次年度以降、さらに充実した研修を行っていきたいと考えている。

学校教育部 教育指導課

情報化推進係
大内 司朗指導主事
情報化推進係
佐藤 昌好指導主事
情報化推進係
菅井 智彦係長

教育人事部 教育センター

企画情報班
大友 重明主任指導主事
企画情報班
木村 昌宏指導主事
企画情報班
坂本 新太郎指導主事

モデル校での実践研究を経て全校にタブレット端末導入へ

タブレット端末活用事例集

 こうした素地が形成された上で始まったのが、タブレット端末の導入プロジェクトだ。まずは2015年度に、東北学院大学との共同研究の一環として、小学校3校に試験的に導入。さらに2016年度には、東北大学、宮城教育大学からも協力を得ながら、特別支援学級等を含む28校(教育委員会が整備した学校を含む)に導入。モデル校での実践研究で一定の成果が見えたことから、2017年度にはすべての市立小・中学校へのタブレット端末導入がスタートした。初年度には小学校40校に40台ずつ整備し、2021年度までに小学校120校、中学校63校、特別支援学校1校、中等教育学校1校に整備する計画だ。

 すべての学校での導入に先立ち、教育指導課では、モデル校の事例をまとめた『タブレット端末活用事例集』を作成した。事例集のキャッチフレーズは、「学びが深まる! 子供たちが伸びる!」だ。単に事例を載せるのではなく、どんな目的で、どのように使うと子供たちがどう変わるかといった、活用のねらいや子供たちの変容に重点を置いて作成した。この事例集はすべての市立小・中学校に配付し、校務支援システム経由でダウンロードもできるようにした。

 「子供たちの変化がわかると、タブレット端末などのICT機器にあまり関心がなかった先生方も、その効果が実感できます。先生方は熱心に指導法を研究されています。そのツールの一つとして、ICT機器を知ってもらい、必要に応じて使ってもらえる参考資料になればと願っています」と大内指導主事は話す。

フォローと事例の共有で「導入しただけ」で終わらせない

 教育委員会の教育指導課では、2017年度にタブレット端末を導入した40校を対象に研修も行った。実際のタブレット端末を使った体験型の研修で、操作方法はもとより、教科指導での活用を意識し、教科とアプリの活用シーンを示した実例を中心に体験してもらった。本研修には各校から2名が参加し、自校に持ち帰ってすべての教員への周知に努めた。

 さらに、指導主事が各学校を訪れて、全教員を対象に研修を行う「タブレット端末活用訪問研修」、実際にタブレット端末を活用した授業を参観して、助言を行う「ICT支援訪問」を実施。大内指導主事と佐藤昌好指導主事の2名で40校を回った。「ICT機器はインフラの一部であり、タブレット端末も特別な道具ではありません。これまで黒板やプリントを使って行っていた授業が、タブレット端末を使うことで、より学びやすく教えやすい授業になったと実感してもらいたいですね」と大内指導主事は述べた。

 現場で拾い上げた好事例は、教員向けの回覧冊子にまとめて情報の共有を図っているほか、すべての小学校の情報教育担当者が集まる「情報教育担当者連絡協議会」で、40校がそれぞれ事例を発表した。各校が教科指導の事例一つと情報モラルの事例一つを持ち寄り、教科ごとにグループになってワークショップ形式で行われた。「良い実践だけでなく、うまくいかなかった事例の紹介もあり、改善の提案も出て、活発な意見交換・情報交換の場になりました」と協議会の企画・運営を担当した佐藤指導主事は話す。来年度以降に導入される学校への情報提供と、早期対応に向けた意識の啓発につながったようだ。

ICTはインフラの一部
特別なことはしなくていい

 タブレット端末を導入した学校からは、「児童生徒の集中力が上がった」「学習意欲が向上した」「課題を解決するための思考力・判断力・表現力の育成に有効であった」といった報告を受けているという。「児童生徒の『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善において、ICT機器の活用による教育効果は非常に大きいと捉えています」と大内指導主事は述べる。

 今後の取り組みの方向性も明らかだ。大きくは3つあり、1つ目は、ICT機器の導入や活用に伴う継続的な効果検証だ。今後、児童生徒の情報活用能力の育成を一層推進していくためには、継続的にデータを収集し、効果を検証していく必要がある。2つ目は整備目標の設定だ。ICT機器の整備が目標ではなく、導入した機器をどう活用するかが重要であり、国の基準目標だけにこだわらず、仙台市に合った整備の方法を現場の先生方の声を大事にしながら進めていく必要がある。3つ目はセキュリティの強化だ。個人情報や学校の機密情報を守っていく必要があり、セキュリティを強化する一方、利便性も維持する必要がある。いずれも、すべての市立小・中学校への整備という大きな一歩を踏み出したからこそ見えてきたものだ。

 最後に、「ICT機器は教えやすく、わかりやすい授業を実現するためのインフラの一部。特別なことをする必要はなく、『今までやってきた授業のなかに取り入れる』という視点が大事です。授業におけるICT活用のハードルが少しでも低くなるように、また、ICTの特性を十分に発揮できるように、より一層のICT環境整備の充実に努めていきます」と大内指導主事と佐藤指導主事は強調した。

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