公開日:2019/5/16
高等学校における情報教育と外国語教育
〜1校あたり434万円*の地方財政措置で、早急なICT環境整備を〜
(*標準的な規模の高等学校における単年度の財政措置額)
これからの社会を生き抜き、未来を創る人材の育成を目指す
文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課
髙谷 浩樹課長
2020年度の小学校における新学習指導要領の全面実施を皮切りに、小・中・高等学校における情報教育と外国語教育の抜本的改革が進んでいる。高大接続改革も目前に控える高等学校において、情報教育や外国語教育の展望、さらにICT環境の整備とその意義について、文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課の髙谷浩樹課長にお話を伺った。
「情報教育」と「外国語教育」を基軸にSociety 5.0の社会を生き抜く
「情報教育」と「外国語教育」2つに共通するものとは
昨年10月、文部科学省の中で組織再編があり、それまで生涯学習政策局にあった情報教育課と、初等中等教育局の国際教育課のうち外国語教育推進室が統合され、新たに初等中等教育局 情報教育・外国語教育課となりました。
この統合には、大きく2つの理由が挙げられます。まず、言語能力(外国語)も情報活用能力も、コミュニケーションのツールであるということ。外国語がわかると、その子供は世界に羽ばたくことができます。そして視野が広がり、世界中の人々とのコミュニケーションが可能となります。また、情報及び情報技術のことがわかる(情報活用能力)と、その子供の視野はバーチャルな世界まで広がっていきます。つまり、これら2つは、人としての幅を桁違いに広げるツールであり、コミュニケーションをとる上で非常に重要なものといえるのです。
そして、これら2つの教育を進める上での課題もまた共通しているというのが、もう1つの理由です。これから迎えるSociety5.0 の社会においては、さらなるグローバル化と共に、ICTやAIの活用が当たり前になります。そういったものに囲まれながら社会を生きていく子供たちにとって、これら2つの能力は必要不可欠な部分となっていきます。情報教育も外国語教育も、2020年度から小学校で始まる学習指導要領で中身が充実していきますが、国として教育現場の先生方をしっかりと支援していく必要があります。そのための業務には共通項が多いため、情報教育と外国語教育を一緒に担当していくこととなった次第です。
新学習指導要領の改訂ポイント①
〜全体の流れ〜
まず、新学習指導要領における基本的な流れは、どちらについても「子供たちが主体的に生きていく」ということです。Society 5.0 や第四次産業革命、平たく言えば、AIが出てきたり、インターネットで何でもつながったりする世の中、そして人間の仕事が次々とAIに取って代わられるだろうとも言われる世の中において、子供たちは自分たちの周りで何が起こっているのかをしっかりと見極め、自ら主体的に考えて物事を進めていってほしいと考えています。そして、そんな社会をただ生き抜くだけでなく、自分たちで未来の社会を創っていこうというときに、情報教育と外国語教育は非常に大切な部分となります。
新学習指導要領の改訂ポイント②〜高等学校における情報教育〜 情報教育については、小学校ではプログラミングを体験し「プログラミング的思考」を育み、中学校では技術・家庭科(技術分野)において、現行より充実したプログラミングに関する内容を学習します。そして高等学校では、共通必履修科目「情報Ⅰ」が新設され、全ての生徒がプログラミングやデータベースの基礎等について学習することになるのが、大きな改訂ポイントです。
これまで高等学校の情報科では、「社会と情報」と「情報の科学」の2科目から1科目を選択して履修する選択必履修科目でした。前者は情報化が社会に及ぼす影響の理解等を重視して教えますが、プログラミングについては教えません。約8割の高校生が「情報と社会」を履修している事実を踏まえると、プログラミングについて学んでいる人は全体の約2割しかいないというのが現実です。
今後は政府全体として、日本の強みを活かし、アメリカや中国に負けずにAI技術を進めていく方針にあるため、この先、特に「AI人材」が広く求められる社会になります。新学習指導要領によって、「情報Ⅰ」を共通必履修科目とし、すべての生徒がプログラミングを学ぶということは、そういった人材育成の裾野を広げるという観点からも、非常に重要な要素となります。
新学習指導要領の改訂ポイント③
〜高等学校における外国語教育〜
まず小・中学校の話から進めると、既に2011(平成23)年度から小学校の高学年で外国語活動が導入されています。これは主に「聞くこと」「話すこと」を中心とした活動で、子供たちは大変興味をもって活動に取り組んでくれています。ところが、せっかく小学校で楽しく英語を学んでも、学年、学校段階が上がるにつれて子供たちの英語への関心が薄れてしまうなどといった課題がありました。
そこで、今回の改訂では、小学校から大学までの英語教育を一気通貫で捉えて、小学校では中学年から外国語活動、高学年では外国語科とし、段階的に「読むこと」、「書くこと」を加えることで、うまく中学校につなげていく狙いがあります。そして、今まで高等学校の学習指導要領で示されていた「授業は外国語で行うことを基本」とすることが、中学校の新学習指導要領においても示されるようになりました。
また、中学校・高等学校においては、「話すこと」及び「書くこと」などの言語活動が適切に行われていないといった課題も指摘されており、このような課題も踏まえながら、高等学校では、5つの領域(「聞くこと」「読むこと」「話すこと[やり取り]」「話すこと[発表]」「書くこと」)を総合的に扱う科目群や、ディベートやディスカッションを行い発信能力を高める科目群などを設定することとしております。また、4技能のうちの「話すこと」が、「話すこと[やりとり]」と「話すこと[発表]」に分かれた、4技能5領域となり、単語数も格段に増えます。
中学校で2019年度に実施される「全国学力・学習状況調査」、高等学校における「学びの基礎診断」、そしてこれからの「大学入試」といったものは、全て4技能を全部しっかりみるという観点から入りますので、高等学校の先生方や関係者の方々は、新学習指導要領における位置付けやポイントを示した本資料をご確認いただければと思います。(図表1参照)
外国語教育とは何か。これからの時代、単に言葉を違う言語に置き換えるだけなら、AIでもできます。しかし、生身の人間同士が顔を合わせ、相手の文化や背景を理解しようとしながらコミュニケーションをとる、というのが本来の言語活動たるものです。そして、それを身につけるというのが外国語教育における基本の考え方であり、それは今までも今後も変わることはありません。ただ、それは「4技能すべてが揃ってこそ」できることなのです。小学校から大学に至るまで、しっかりと一気通貫で4技能を高め、グローバル化する社会の中でしっかりと生き抜く子供たちを育てたい。それが今回の外国語教育の改訂における、私どもの最大のモットーです。
情報教育と外国語教育におけるICT活用
情報教育と外国語教育を進める上で、ICTというのは、非常に役立つ重要なツールです。
昨年11月に柴山文部科学大臣によって、「柴山・学びの革新プラン」が打ち出されました。これは、①遠隔教育の推進による先進的な教育の実現、②先端技術の導入による教師の授業支援、③先端技術の活用のための環境整備、の3点を政策の柱とし、ICTなどの先端技術の活用によって、すべての児童生徒に対して質の高い教育を実現することを目指すものです。
特に私どもは、「先生に先端技術をしっかり使ってもらいたい」と強く願っています。情報教育と外国語教育に限らず、ICTを活用すると、子供たちの学びはぐっと広がります。新学習指導要領で言われている「主体的、対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」を実現する上でも、ICTの活用は非常に効果的なので、授業の中でもICTをしっかりと使ってもらいたいですね。
また近年、「先生の働き方改革」ということがよく言われています。先生方が「子供たちに教える」という本来の業務にしっかりと専念できるよう、校務の情報化によって他の業務を効率化する必要があります。こういった観点からも、ICTの活用を環境整備とも連携させながら、学校現場と一緒になって進めていきたいと考えています。
今、求められるICT環境とは
高等学校に求められるICT環境とその整備状況
整備すべき環境については、学びの段階や学校種によって多少の違いがあるかと思います。例えば、大型提示装置はどの段階・学校種でも整備すべきでしょう。しかし、プログラミングが必修化される高等学校においては、タブレット端末より、キーボード付きのパソコンの台数を確保する方が、優先度としては高いと思います。小・中・高等学校問わず、最終的には一人1台の専用パソコンが望ましいところですが、2018年3月現在の調査結果によると、高等学校における教育用コンピュータ1台あたりの生徒数は4.6人(図表2参照)であり、小・中・高等学校を通じて、まだまだICT環境の整備が進んでいるとは言えない現状に、政府全体として、かなりの危機感を抱いている状況です。
「1校あたり単年度434万円*」の地方財政措置で
今のうちに確実なICT環境整備を
*標準的な規模の高等学校における単年度の財政措置額
なぜ進まない?
学校のICT環境整備
整備が進まない状況には、大きく2つの要因が考えられます。
まず1つは、ICT整備に対し、過度に成果を求めていることです。児童生徒の意識調査では、ICTを活用することで「授業理解度の向上」や「興味関心の高まり」などが向上しています。しかしながら、「本当にICTを活用すると子供の成績が上がるのか?」と質問されることがよくあります。ICTは、もはや学校の学びにとって必要不可欠な「教具」であるのに、未だにそんな議論がされていることが残念でなりません。
ご存知の方も多いと思いますが、2018年度からスタートした「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」(図表3参照)の中では、単年度1805億円の地方財政措置が講じられています。「1805億円」という数字だけが一人歩きしている印象ですが、実はこれ、1校当たりに概算すると、小学校から高等学校まで「毎年400〜600万円」ほどの額となるのです(図表4参照)。これだけの財源をICT環境の整備に充てるのか、それ以外に回すのかは、各自治体の裁量に任されているところですが、5年間他のことに使ってしまうと、その分、ICT整備は遅れ、いざ5年後に揃えようとしても既に財源はなくなっている可能性があります。これだけAIやICTが世の中に普及している時代ですから、整備が不十分な自治体では、改めて子供たちのために早急な整備を進めていただきたいですね。
もう1つの要因は、「なんとかしなきゃ」と思いつつ、技術的な知見が追いついていないために、どのような設備を入れたらよいか分からず、結果としてオーバースペックな機器を揃えてしまい、操作が難しくあまり使われないというパターンです。適切な整備内容等については、私どもの方でも文部科学省のウェブサイトにて周知に努めているところですが、引き続き、そのような自治体とも協力して進めていきたいと思っています。
もちろん、最初から導入に熱心な自治体も多く、ICT教育を積極的に推進する首長さんが中心となって設立された「全国ICT教育首長協議会」というネットワークと、緊密に連携し合って進めております。
すべての子供たちにICT環境を
ICT環境の整備状況については、どうしても自治体ごとに差が開いてしまうのが課題の1つです。
子供たちが小・中学校を通じて活動してきた内容が高等学校でも引き続き学べるように、ICT環境についても、学校種間のギャップが生じないよう、小・中・高等学校の接続の観点からしっかりと考える必要があります。それについては、都道府県と市区町村が一丸となって、連続したICT環境を子供たちのために整備していっていただきたいです。
また、政府全体の方針に従い、文部科学省としても、最先端技術活用の一環として、CBT(Computer Based Testing)の導入など、今後は様々な角度からICTの活用を促進していくこととなります。例えば、今後、全国学力・学習状況調査がオンライン上でできるようなシステムが構築できれば、結果的に先生方の業務の改善ににもつながるので、そういったものに各学校が適切に対応できるよう、一刻も早い整備をお願いしたいところです。
学校種間のギャップを減らし連続した学習環境の構築を目指す
さらなる改革を目指して
私どもの一番大きな期待としては、まさに今回の学習指導要領の改訂の目的である「子供たちに、これからの社会を生き抜く力をつけてほしい」という一点に尽きます。授業の中にICTやAIを応用した技術を取り入れることで、Society5.0 と言われる世の中を生き抜くための力が身に付くことが期待されます。また、技術の発展によって、海外ともつながりやすい世の中になりグローバル化が進行すれば、外国語によるコミュニケーション能力が一層求められることが想定されます。情報教育、外国語教育というのは、第四次産業革命とグローバル化のなかで、これからまさに広がってくる分野です。この分野にしっかり対応できる大人に育って欲しいという切なる想いから、改革を進めています。
高等学校というのは、子供たちに言語能力、情報活用能力を総合的に身につけてもらう段階であり、その分、将来をしっかり見据えて学習できる場といえます。しかし、学習というのは連続しており、学校種間で切り分けて考えることができません。現在、国を挙げて、大学入試改革を含めた高大接続改革に力を入れています。そのなかでも英語教育については特に、小中高大を一貫して進めることで、学校種間のギャップをしっかり減らし、スムーズに勉強していける仕組みづくりを目指しています。