公開日:2022/6/23

先生が「教える」から、子どもが「主体的に学ぶ」へ

GIGAスクールで、授業が変わり始めた!

―愛知県―
春日井市立藤山台小学校

GIGAスクールの成功事例として、全国から注目されている愛知県春日井市。「GIGAで授業が変わった」好例とされる、同市立藤山台小学校の久川慶貴先生(6年生担任)の学級に、朝の会から帰りの会まで1日密着。その授業を見学させていただいたが、その「変化」は、想像をはるかに超えていた。

春日井市立藤山台小学校

春日井市立藤山台小学校
〒487-0035 愛知県春日井市藤山台3丁目2

大規模な団地に隣接した藤山台小学校は、全校生徒455名(※令和3年5月1日現在)の、ごく普通の公立学校。その子どもたちが、「子ども主導」の学習を進められるようになったことに、注目したい。

先生が教壇に立たないまま進んでいく授業

 「今日は、前時までに学んだことを踏まえて、日本が条約改正に成功した理由を考えます。そのために必要な情報やどう学習を進めるかを話し合ってください」

 6年生社会科の授業の冒頭、教壇から子どもたちにそう指示したのは、担任の先生ではない。司会役を買って出た2人の子どもだ。1人1台端末とクラウドで、久川慶貴先生の授業は大きく変化した。「先生が教える」から、「子どもが主体的に学ぶ」になったのだ。

 司会役の説明が終わると、子どもたちは慣れた様子で学習に取りかかった。教科書を見直す子もいれば、ネット検索をかける子もいる。Google Jamboard™ で共同編集しながら情報を整理するグループもあり、まさに十人十色。端末をのぞきこんで見ると、まとめている内容も一人ひとり違う。今日の課題を、自分なりの視点や方法で解決しようとしているのだ。にもかかわらず、何をすればいいかと迷ったり戸惑ったりしている子は、一人もいない。

 「ピラミッドチャートはさ、こうやって2段目に大きなテーマ、その下に詳細な情報を整理するといいよ」。子どもたちは自由に立ち歩き、教え合いや相談を始めた。そのかたわら、端末に向かって黙々と作業している子もいる。先生が「10分間話し合いましょう」「では個別に作業しましょう」などと、指示を出すことはない。必要だと感じた時に、対話と個別活動とを、自由に行き来していた。

 その様子を久川先生は見守り、時には個別に指導する。クラス全体への指示や説明は、数分にも満たない。ふと黒板を見ると、文字の一つも書かれていない。社会科と言えば、先生が解説し板書する時間が長い教科の一つだが、久川学級は違う。今まで先生が説明したり板書したりしていたことを、子ども一人ひとりが、自分の端末で行っていた。

GIGAをきっかけに、授業がこう変わった!

全教科とも Google スライド で作成したデジタルワークシートを配布。今日の課題や学習活動の進め方の例、ルーブリックなどが記載され、子どもたちは考えや成果をまとめる。全教科とも Google スライド で作成したデジタルワークシートを配布。今日の課題や学習活動の進め方の例、ルーブリックなどが記載され、子どもたちは考えや成果をまとめる。
全教科とも Google スライド で作成したデジタルワークシートを配布。今日の課題や学習活動の進め方の例、ルーブリックなどが記載され、子どもたちは考えや成果をまとめる。
Google Jamboard で情報や自分の考えを整理・分析。
Google Jamboard で情報や自分の考えを整理・分析。
司会役を志願した子どもが授業の冒頭に登壇。今日の課題を発表し、個別学習かグループワークかを決め、先生への質問を取りまとめるなど話し合いを行う。
司会役を志願した子どもが授業の冒頭に登壇。今日の課題を発表し、個別学習かグループワークかを決め、先生への質問を取りまとめるなど話し合いを行う。

子供たち主体の新たな学習観が誕生

 社会科の授業に限った話でなく、国語でも算数でも、学活でさえも、同様だった。今までの授業に1人1台端末やクラウドを当てはめるのではなく、授業そのものが根底から変わっていた。新たな授業観や学習観が、誕生していた。

●主体的・対話的で深い学び

 学習の主導権は、最初から最後まで子どもが握っていた。一人ひとりが課題を持ち、自分のペースで学習を進行。時には対面で話し合い、時にはクラウド上で友だちの学びを参考にしていた。そして先生が毎時間配布する Google スライド™ をノート代わりに、学びの成果をまとめていた。まさに「主体的・対話的で深い学び」であり、習得した「知識・技能」を活用して、「思考力・判断力・表現力」を発揮し、学びを深めていた。

先生が指示することなく、子どもは対話と個別活動を自由に行き来する。必要に応じて、紙のノートも使い分けていた。
先生が指示することなく、子どもは対話と個別活動を自由に行き来する。必要に応じて、紙のノートも使い分けていた。

●個別最適な学び

 「何を学ぶか」「どう学ぶか」を一人ひとりが考え、自分なりの学習を創造していた。

 例えば算数の授業では、自分のレベルを考慮して、取り組む問題を選択していた。社会科では、自分の課題意識に合った学習活動の形を目指しながら学ぶ姿が見られた。

 学習の内容や方法を自分で決め、調整しながら学んでいくという「自己調整学習」によって、子どもは自らの手で「個別最適な学び」を実現していた。

チャットで自分の学習活動方針を発表するなど、オンラインでも対話。グループに教師が入ることを条件に子ども同士で自由にグループを組み、チャットすることも許されている。チャットで自分の学習活動方針を発表するなど、オンラインでも対話。グループに教師が入ることを条件に子ども同士で自由にグループを組み、チャットすることも許されている。
チャットで自分の学習活動方針を発表するなど、オンラインでも対話。グループに教師が入ることを条件に子ども同士で自由にグループを組み、チャットすることも許されている。

●「単線型」から「複線型」へ

 「個別最適な学び」になったことで、先生が設定した「一つのゴール」へ向かって子どもを導く「単線型」の授業から、子ども一人ひとりが自分の決めたゴールに向かう「複線型」の授業に変化。先生の役割も、「ティーチング」から「コーチング」へと変わった。

子ども主導の授業になった結果、個別指導の時間を大幅に増やせたという。
子ども主導の授業になった結果、個別指導の時間を大幅に増やせたという。

このような学びの土台となるものは?

このような学びの土台となるものは?

 このような授業が、なぜ、どのように産み出されたのだろうか。ここ3〜4年で、久川先生は「子どもにきちんと教える授業」「教師が子どもを導く授業」はできるようになったと、手応えは感じていた。だが同時に、「このままでいいのだろうか。子ども主体の授業にすべきではないか」とも葛藤していた。しかし、そのための手段や環境がなく、夢物語だと半ば諦めていたという。

 そこに、1人1台端末やクラウドがやって来た。まず校務で使ってみた久川先生は身震いした。「とんでもない武器を得た。これなら子ども主体の授業にできる」と感じたのだ。

 加えて、春日井市では約10年前から実物投影機などのICT活用を続けてきた経緯がある。先生が培ったICTの知識や経験で、子どもたちの情報活用能力を育成するタイミングがついに訪れた。

 まず子どもたちにそれらで遊ばせ、慣れることから始めた。端末でお絵かきをしたり、Google Jamboard でしりとりをしたり。同時に布石も打った。「授業でたくさんの情報を整理する時、Google Jamboard は便利そうだね」と、学習での使い道を示唆したのだ。慣れた頃を見計らって授業で使い始めたが、最初は「調べたことを Google Jamboard で整理しよう」などと使い方を丁寧に指導し、少しずつ自分で使えるようにしていった。

 しかし、端末やクラウドの「使い方」を習得させることよりも、もっと大事なことがある。第一に、学級経営だ。

 「学び合うためには、子ども同士が信頼関係で結ばれていなくてはなりません。また、子ども主導で学ぶようになれば、一人ひとり学ぶ内容も学び方も違ってきます。『違い』を恐れたり批難したりせず、お互いを認め合う人間関係が必須です」。だから年度初めの4月から、一人ひとりをとことん褒めた。一人ひとり違っていい、みんなにいいところがあると、伝えるためだ。「褒め言葉のシャワー」も毎日続けている。グループで輪になり、一人の子の「今日よかったこと」を、皆で具体的に称賛するのだ。

 このような学級経営があってこそ、子どもたちはお互いを認め合いながら、教え合い、学び合える。「自分の考えこそ正しい」と押しつけたり、他人の誤りをあげつらったりするような子は、一人もいなかった。「私はこう思うけど、どうかな?」「そういう意図ならば、こうしてみたら?」と、相手を思いやりながら助言する、温かい学び合いになっていた。

 もう一つ大切なのが、「学び方」を習得させることだ。子どもに学習の主導権を渡しても、「どう学べばいいのか」が分からなければ、子どもたちは戸惑い、迷い、学びは停止する。そこで久川先生は、「学習過程」という学び方を示した。「学習の計画」を立て、「課題を設定」し、「情報を収集」し、集めた情報を「整理・分析」し、「まとめ・表現」する。この学習サイクルを意識させ、子どもが自分で回せるようにしていったのだ。

 「最初は学習過程に沿って次の活動を細かく指示しましたが、『次は何をすればいいと思う?』と考えさせるようにし、少しずつ自分で学習過程を回せるようにしていきました」。

 先生の予想から、子どもの学びが逸れることもある。大幅な逸脱は助言して修正することもあるが、「逸れてもいい」と、久川先生は捉えている。先生からは逸れているように見えても、その子なりの意図やこだわりがあり、何かを学び取るかもしれないからだ。

朝の会や休み時間にも端末を使う

パソコンで、今日の時間割を確認。
パソコンで、今日の時間割を確認。
休み時間にスクラッチでプログラミングする子どもも。授業だけでなく、子どもたちはクラブ活動や委員会、学年行事、有志活動など、学校生活全般で端末を自在に使っている。
休み時間にスクラッチでプログラミングする子どもも。授業だけでなく、子どもたちはクラブ活動や委員会、学年行事、有志活動など、学校生活全般で端末を自在に使っている。
毎日の勉強記録を Google スプレッドシート™️ で管理し、友だちにチャットでも報告。友だちの頑張りに刺激され、今まで宿題を忘れがちだった子が、毎日頑張るようにもなったという。毎日の勉強記録を Google スプレッドシート™️ で管理し、友だちにチャットでも報告。友だちの頑張りに刺激され、今まで宿題を忘れがちだった子が、毎日頑張るようにもなったという。
毎日の勉強記録を Google スプレッドシート™️ で管理し、友だちにチャットでも報告。友だちの頑張りに刺激され、今まで宿題を忘れがちだった子が、毎日頑張るようにもなったという。

昔の授業には戻りたくない!
学習者として成長した子ども

昔の授業には戻りたくない!学習者として成長した子ども

 このような取り組みを始めて、わずか3〜4カ月で、子どもたちは変わり始めた。子ども同士の対話は飛躍的に増え、学習過程も自分で回せるようになっていった。それを見て、久川先生は指示や説明の量を少しずつ減らし、「学びの主導権」を徐々に子どもへ移譲。自らは、個別指導に注力していった。結果、子どもたちの学習は「量」も「質」も高まっていった。

 最近、久川先生は「授業」という言葉にすら、違和感を覚えるという。先生が「業」を「授ける」のではなく、子どもが自ら学んでいるからだ。「前の授業と今の授業、どっちがいい?」と、子どもたちに尋ねたところ、ある子はこう答えたという。

 「先生の話をしっかり聞いて、先生の板書を正確に書き写すのが授業だと思っていた。授業が変わって、最初は戸惑った。でも、今は自分たちで学べるのがとても楽しい! 『勉強の仕方』も分かってきたし、前の授業には絶対に戻りたくない。これからも自分で学んでいきたい!」

 これが、GIGAスクールで進むべき「次のステージ」であり、目指すべき子どもの姿なのだろう。

学習過程や規律も共有する

教室の壁には、「学習過程」の流れと、具体的な方法が貼られている。
教室の壁には、「学習過程」の流れと、具体的な方法が貼られている。
校務でも、クラウドが活躍。管理職や担任の先生は、欠席や遅刻した子どもの情報を毎朝入力し、全校で共有。電話連絡や確認が必要な時は、職員室にいる先生がまとめて代行する。「担任が教室を離れなくてもよくなった」と先生方に大好評で、GIGAの活用が全校レベルで進むきっかけの一つとなった。
校務でも、クラウドが活躍。管理職や担任の先生は、欠席や遅刻した子どもの情報を毎朝入力し、全校で共有。電話連絡や確認が必要な時は、職員室にいる先生がまとめて代行する。「担任が教室を離れなくてもよくなった」と先生方に大好評で、GIGAの活用が全校レベルで進むきっかけの一つとなった。
子ども主導の学びには、学習規律の徹底も必要不可欠だ。
子ども主導の学びには、学習規律の徹底も必要不可欠だ。

*Google Jamboard、Google スライド、Google スプレッドシート は、Google LLC の商標です。

教諭<br>久川 慶貴 先生

教諭
久川 慶貴 先生

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