回答共有で自分の意見を深め 学力向上につなげる

公開授業レポート ツールの活用で、学習の主語を“子供”に

―徳島県―
上板町立高志小学校

徳島県教育委員会は、2021年1月に「徳島県GIGAスクール構想」を策定し、「子供の学びを支え深化させるEdTech活用推進事業Ⅲ」を推進している。EdTech研究指定校である上板町立高志小学校は、学校教育活動における1人1台端末の効果的な活用法についての研究の一環で、定期的に公開授業を行っている。今回は、第3回にあたる2023年1月24日の公開授業の様子をレポートする。

2年生でタイピングを習得し6年生は全員がツールを活用

 徳島県北部に位置する上板町立高志小学校は、徳島県教育委員会が推進する「子供の学びを支え深化させるEdTech活用推進事業Ⅲ」のEdTech研究指定校として2021年から公開授業を行っている。

 今回で3回目を迎える公開授業では、各学年で端末を活用するスキルに合わせた授業が展開されていた。高志小学校では、2年生の3学期にはほぼ全員がタイピングでの入力ができるようになっていると言う。校長先生自ら教壇に立ち、タイピングにおけるホームポジションの重要さを伝える機会をもうけるなど、低学年から端末を使いこなすためのきめ細かな指導がなされている。

 6年生ともなると、クラウド上でグループの考えを共有し合ったり、それぞれが作成したコンテンツにコメントを入力したり、当たり前のようにICTが授業に溶け込んでいる様子が伺えた。

 公開授業の後は、参観者と授業者で授業感想交換会を実施。質問や感想は Google フォームで受けつけ、 Google スプレッドシート™ で共有しながら回答していった。

 「5年生の算数で教科書の問題を使わなかった理由は何か」という質問に対し、5年生の算数を担当する中谷雪路先生は次のように語った。

 「今日の授業は、70歳以上の免許証の保有率と事故率の関係など、高齢者の運転に関する統計資料のグラフから何が読み解けるかを考え、またそこで得た一人ひとりの思考をクラス全体で共有することがポイントです。これからの社会を生き抜くにはデータの分析や誤った情報に惑わされない洞察力を身に付けることが求められます。もちろん教科書の問題を解くのも重要ですが、今回は子供たちの思考力を養うことを目的とした授業構成としました」(中谷先生)

 そのほか、「タイピングは2年生の夏休み前から練習を始め、今ではほとんどの児童が入力できるようになった」「6年生はほぼ全員がツールを活用している」「めあてや振り返りなどの書き方や色使いを、板書とツールの両方で統一している」「端末利用のルールは児童が相談して決めた」ことなどが共有された。

第3回公開授業のプログラム
第3回公開授業のプログラム

経験の蓄積が学力向上を後押し回答共有で誰一人取り残さない

 最後の対談では、中川斉史校長と東北大学大学院・東京学芸大学大学院の堀田龍也先生が、「教育DXの本当の意味を踏まえたGIGA構想と求められる日本の学力」をテーマに高志小学校のICT活用や学力向上への取り組みについて語り合った。

 高志小学校では、発表や意見交換などさまざまなシーンで端末が活用され、「自分の言葉でまとめる」「今日の授業を構造化する」「めあてに即して振り返る」「共有した友達のノートから学ぶ」ことに重きを置いた授業を展開している。学力調査でも日々の端末活用の効果が表れていることについて、中川校長はこう分析した。

 「生活・総合のカリキュラム・マネジメントを意識し、授業や体験学習のまとめを子供たちの言葉で思考ツールに落とし込む作業を繰り返し行っています。その上で、皆の意見を全員で共有すると、“ほかの子はこう考えるんだ”“こうやってまとめればいいんだ”と自然と良い手本に触れられ、誰一人取り残さない授業になります。回答共有を通じて自分の考えを深めたり広げたりすることが、学習の主語を“子供”にすることにつながり、その成果が学力に表れているのではないでしょうか」(中川校長)

 堀田先生は「クラウドを使いこなすスキルを子供が身に付け、日々の授業で経験が蓄積されていく様子が全学年で見られる。これが学力向上につながっている」と付け加えた。

学校向上における中川校長の分析

若手もベテランも先生全員が学校経営に参画

 子供たちのみならず、教職員もツールの活用は欠かせない。高志小学校では、Google Jamboard™ を授業研究会で使用するほか、Google Chat™ で情報共有、Google ドライブ™ で写真や動画の共有などすべてクラウドを活用している。校内のツールを統一すると、新しく異動してきた教員でもツールの使い方さえ習得すればすぐに授業を任せられると言う。「クラウドを上手に活用すると働き方も楽になります。その便利さを実感し授業に生かすことで子供たちの活用も進むでしょう」(堀田先生)

 高志小学校独自の学習指導案について、堀田先生は「授業の内容や目的を図解して情報整理することで、子供たちの意識の流れを可視化し、先生自身も学習のねらいを再認識できる非常に良いフォーマット」と振り返り、「若手もベテランも全先生方がICTの活用に前向きに取り組む姿勢と、一人ひとりが学校経営に参画している空気感が高志小学校のGIGAがうまくいっている秘訣だと思います。この好例を徳島県全体に広げていきたいですね」と締めくくった。

*Google スプレッドシート、Google Jamboard、Google Chat、Google ドライブは、Google LLC の商標です。

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