「まずはやってみよう!」マインドと「途中参照・他者参照」で自ら学ぶ児童に

学校訪問 “一人一人が活躍できる学び方革命”

―神奈川県―
座間市立中原小学校

座間市立中原小学校は、「一人一人が活躍できる学び方革命」を合い言葉に授業、校務、教員研修などあらゆる場面でICTを積極的に活用している。けん引役の先生に、実際の授業内容やそれによって児童にどのような変化が生じたのか話を伺った。

「まずはやってみよう!」マインドと「途中参照・他者参照」で自ら学ぶ児童に
座間市立中原小学校

座間市立中原小学校
〒252-0016
神奈川県座間市西栗原2-16-1

1984年開校。学校教育目標の中から「自ら学び、自ら考え、自ら行動する子」を2022年度の重点目標に掲げている。これに合わせ「自ら学ぶ教師」を目指し、2022年から研究をスタートさせた。

日常使いしやすいようにChromebook™ は机横に

 神奈川県のほぼ中央の座間市にある中原小学校は、全16学級で児童459名、教職員27名が在籍している。ICT教育については、2019年12月の文部科学省のGIGAスクール構想発表を受けて準備をスタートし、2021年2月には中原小学校を含む市内の小中学校全17校に Chromebook が配備された。校長の田中恵子先生は「6年生は卒業まで間もない時期でしたが、アカウントは中学校に引き継がれるとのことでしたので、『まずはやってみよう!』と児童全員がログインすることからスタートしました」と振り返る。

 この「まずはやってみよう!」が中原小学校のICT教育のキーワードとなっていく。「当初、市内の小中学校では Chromebook は教室内のキャビネットに保管するのがルールでしたが、子供が日常使いするために、当校は配備後に専用かばんを購入し、それぞれの机横のフックにかけるようにしました」(総括教諭 情報担当の髙橋早苗先生)

子供が端末をすぐに使えるように机横のフックにバッグでかける。
子供が端末をすぐに使えるように机横のフックにバッグでかける。

 まずは先生同士が手分けしてブラウザでタイピング練習や計算練習ができるサイトを探した。新型コロナウイルスの感染が拡大した際の欠席や学級閉鎖に対応できるように、毎日の持ち帰りを推進。その後デジタルドリルなどが整った段階になると家庭でも課題に取り組むように方針転換し、全学年の先生にアナウンスした。

 「配備直後は真新しさがあり、使用するたびに子供から歓声があがっていました。現在では、文具のように当たり前に Chromebook で学習したり、友達と意見交換したりするという姿が増えてきているように感じます。保護者の方にも授業参観で見てもらう機会が増え、端末を使用した授業に驚きや感動を感じる声が聞こえます」(教諭 研究主任の山中健太郎先生)

「見通しを持たせる」と「学習過程を意識させる」

 中原小学校は2022年度と2023年度の2年間、東京学芸大学 教育学部 教授の高橋純先生に講師を依頼し、GIGAスクール構想に基づくICT教育のあり方を研究している。子供の下校後に全先生を対象に定期的に開催する校内研究会では、高橋純先生の指導を受けながら「自ら学び、自ら考え、豊かな心を持つ子の育成」の実現を目指し情報交換する。

 「本校の校内研究会のサブテーマは『一人一人が活躍できる学び方革命』です。子供たちは同じ学年でも興味の方向性、得意不得意も一人一人異なります。それを活かせる個の学びを行うことができれば、どの子も学校で楽しく学ぶことができるのではないでしょうか。従来は教師に与えられた課題をみんなで追求する形でしたが、それにうまく乗ることができない子もいます。子供たちが学習課題を自分事とし、課題に取り組み、学びのゴールに到達できるよう授業を組み立てていくことが目標です」(田中先生)

 例えば、2年生の担任の山中先生は、子供たちが自ら学び、自ら考えるようになるため、授業では「見通しを持たせる」「学習過程を意識させる」「途中参照・他者参照」の3点を常に心がけている。最初の「見通しを持たせる」については、授業で学ぶことを事前に Google Classroom で簡潔に示しておく。さらに実際の授業の最初でも黒板に「めあて」を細かく丁寧に示す。

 「『かんさつカードをつくり、わかったことをつたえよう』の授業では、黒板の左側に①カードをつくる、②つたえあう、③ふりかえり、と授業の流れをまとめます。右側には、大きさや色、形、さわった感触、長さを㎝などの単位で具体的に表す、数を数えるなど、自分が作ったかんさつカードを他人に伝える際のコツを明示します。色紙を使いながら短い言葉で説明すると2年生でも理解しやすいようです。Google Classroom や板書を通じて授業のゴールをあらかじめ伝えておくことで、子供たちが学びの流れや自分が行う作業内容をイメージした状況で授業を始めることができます」(山中先生)

 2番目の「学習過程を意識させる」も、子供たちが自ら学び、自ら考えるようになることを促すプロセスと位置付けられる。子供たちに分かりやすいように表現を変えて、「かだいをきめる」「じょうほうをあつめる」「考えをせいりする」「はっぴょうする」の4つのやることを黒板に色紙を使いながら示すことで、子供たちは与えられた課題に対して安心して、積極的に動けるようになる。

自然に「協働」の意識が芽生え自らの意思で行動できるように

 3番目の「途中参照・他者参照」は、1人1台端末環境下ならではの学習スタイルと言えるだろう。Google Jamboard™ で出席番号ごとに一人1シートの専用領域を与え、これを山中先生はもちろん、子供同士も常に参照できるようにする。シートは先生が加工していないブランク=白紙が基本だ。課題解決に困った時は端末で友達のシートを見ても、隣や前後と話し合っても、立ち歩いて直接の相談もOKと伝える。そして、まとめ方は一人一人が自由に決める。

 「課題を与えると、まずは個別で作業を始めます。しばらくすると他者が気になり前後で話し合ったり、友達の席まで歩いて相談したりする子供が出てきました。より良い助言を求めて複数で相談する姿も見られます。その後は再び個別で課題解決に取り組み始めました。ここまでの行動パターンはある程度予想していましたが、その後に課題が終わった子供が作業途中の友達に寄り添い、自らアドバイスする姿には驚きました。クラウドを活用した途中参照・他者参照の取り組みは、子供たちに自然と『協働』の意識を芽生えさせ、自らの意思で行動に移せるようになるとともに、豊かな心を育んでいると実感しました」(山中先生)

 1年生を受け持つ髙橋先生も、Google Classroom と「白紙」の Google Jamboard を授業で活用している。「デジタルで学習をすることで、何度もやり直しをすることができます。Google Jamboard は一人1フレームとし、共同編集することで自分の考えを他者の考えと比べられます。他者の考えを参考に自分の考えに追加することで、さらに理解を深めることができました」(髙橋先生)。1年生でも、先生が Google Classroom に白紙の Google Jamboard と写真を上げ、子供たちに写真を Google Jamboard に貼り付ける活動から行うように事前に伝えておくことで、担任の事前準備の時間を減らすことができたと言う。

 「クラウドをベースにした途中参照・他者参照型の授業を続けることで、課題にフル回転で思考する子供が増え、反対にまったく行動しない子供はいなくなりました。授業の見通しを示し、活動自体は子供に委ねる割合を増やすことで、一人一人がより良い成果を上げようと自ら工夫します。難しい課題に直面した時は友達や先生に自分から助言を求めます。どんどん自己決定する子供の姿を見ていると、学び方が変わってきていると感じます」(山中先生)

中原小学校の「一人一人が活躍できる学び方革命」の3つのポイント

打ち合わせは Google Chat™
ICTで校務を改善

 中原小学校では「校務のGIGA化」にも力を入れている。教員が「まずはやってみる」意識でクラウドを活用して便利さを実感する。それが「授業にもICTを取り入れよう」との意識改革につながり、結果として、子供が工夫された授業という恩恵を享受できるからだ。

 「打ち合わせは Google Chat に移行しました。目を通すだけなので打ち合わせの回数自体が減少しました。また打ち合わせの確認をどこでも行えるようになり、それぞれの都合で授業準備や教材研究、校務を進められるようになりました。ただし Google Chat は時間が過ぎると過去のメッセージがスクロールされてしまい見にくいので、職員室の Google Classroom でそれぞれの議題を分かりやすく整頓するようにも心がけています。 Google スプレッドシート™ は同時編集ができるので、行事後の反省点など各先生が同じ時間帯に一斉に入力したい業務が待たずにできるようになりました」(髙橋先生)

 教員のICTスキル向上では、髙橋先生と山中先生を中心に校内研修会を開き、どんなことに使えそうか話し合いを重ねている。Chromebook 導入時の研修会では講師役は固定せず、困っていることをその場で質問し、分かる人が答えて全員で共有した。現在は、各先生が進んで実践報告を行い、分からないことがあるとすぐその場で試してみる自由な雰囲気の中で進めている。

 髙橋先生は20年ほど前の新人教諭の頃から情報機器整備を担当することが多く、パソコン操作が苦手、または馴染みがない先生方に校内研修を切り盛りしてきた。その経験が、校内研修会の運営や各先生のやる気を引き出すノウハウとして生きている。

先生間でアウトプットし合って同僚性を高め、スキルを底上げ

 授業研究のバリエーションも増やした。「ちょこっと実践日記」は Google Chat に「使用したアプリ/学年/教科/単元名」を入力して、実際の授業内容、成果や課題をスライド1枚程度のボリュームにまとめる。「授業へのICT活用は、『無理だ』という否定から入らず『やってみるか』と実践し、成功したらそれを皆で共有。失敗したら再挑戦し、それでも失敗したら皆で違う方法を考える。教員のICTスキルに関しては、日頃のちょっとしたアウトプットの共有を積み重ねて同僚性を高め、全体の底上げを図りたいと考えます」(山中先生)

 子供一人一人が異なる個性を持つように、教師も一人一人個性が異なる。「その先生の持ち味を生かしながら、子供たちが夢中で課題を追求し続ける授業を展開してほしいです。でも初めから自分の型を作るのは難しいので特に若い先生にはほかの先生、学校から学んだことを取り入れ、子供たちと一緒に授業を作ることを目指していただきたい」(田中先生)

 中原小学校の「まずはやってみよう!」マインドと授業や校務、教員研修にわたる工夫は、全国の学校が参考にしたいヒントにあふれている。

先生が Google Chat 上で授業内容、成果や課題を“ちょこっと”アウトプットする「ちょこっと実践日記」。日頃の共有が全教員のITCスキル向上につながる。
先生が Google Chat 上で授業内容、成果や課題を“ちょこっと”アウトプットする「ちょこっと実践日記」。日頃の共有が全教員のITCスキル向上につながる。
校内研修会の様子。一人一人のアウトプットを意識して進行する。
校内研修会の様子。一人一人のアウトプットを意識して進行する。

*Chromebook、Google Jamboard、Google Chat、Google スプレッドシートは、Google LLC の商標です。

校長<br>田中 恵子 先生

校長
田中 恵子 先生

総括教諭<br>情報担当<br>髙橋 早苗 先生

総括教諭
情報担当
髙橋 早苗 先生

教諭<br>研究主任<br>山中 健太郎 先生

教諭
研究主任
山中 健太郎 先生

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