公開日:2026/4/28
相模原市が進める生成AI活用と「相模原スタイル」
学校訪問 「学校主体で取り組む教育DX」
―神奈川県―
相模原市立中野中学校
GIGAスクール構想以前からICTを積極的に活用してきた相模原市は、現在、生成AI活用においてもトップランナーとして注目を集めている。その特徴は、生成AIの使い方を教育委員会が細かく定めるのではなく、教育DXの考え方を学校と共有し、学校が主体的に取り組める環境を整えている点にある。
相模原市立
中野中学校
〒252-0157
神奈川県相模原市緑区中野960
相模原市
教育委員会
〒252-0239
相模原市中央区中央
3-12-10
総合学習センター1階
生成AIは「協働的な学び」の相手
相模原市立中野中学校では、生成AIを単なる検索ツールとして使うのではなく、子供の思考を深めるための「協働的な学びの相手」として授業の中に位置付けている。生成AIとの対話を通して、自分の考えを言語化し、学びを深める。その積み重ねによって、主体的・対話的で深い学びが充実している。
「生成AIはすぐに答えが出るため、子供が考えなくなるのではないかと懸念する声もある。しかし本校では、生成AIとの対話を通して、子供たちの思考を活性化させ、学びを深めているのが特徴です」。そう語るのは、中野中学校の上野勝己副校長だ。実際の授業で、生成AIはどのように活用されているのだろうか。
取材したのは、3年生国語科の授業。この単元では、生徒が短編小説を深く読解し、作品の内容や魅力を自分の言葉で伝えられるようになることをねらいとしている。生徒は2~3人でグループを組み、4つの短編小説から1作品を選んでまずは深く読み解いていくのだが、ここで中村剛先生は、生成AIに「先生役」を担わせる実践を展開していた。
生徒たちは先生が配布した生成AI用「デザインプロンプト」を各自の端末で実行する(図1)。「デザインプロンプト」とは、授業案をベースに、教師に代わって発問を行う生成AI用のプロンプトであり、授業デザインの一部をプロンプトに落とし込んだことから、こう名付けられている。このデザインプロンプトを実行すると、生成AIが「出来事の順番や流れは?」「最も大きな出来事は何?
それによってどう変わった?」などと、先生に代わって10の質問を投げかけてくる。生徒はそれに対し回答を入力していくが、生成AIは「別の言葉で言い換えるとしたら?」といった「深掘り」の質問を返したり、あえて異なる意見を提示したりしながら、生徒たちの考えを深めるようになっている。今回の授業で活用していた「デザインプロンプト」の全文を掲載したので(図2)、ぜひ試してみてほしい。プロンプトには、授業で扱う発問の流れや、生成AIに担わせたい教師の役割が組み込まれており、まるで「指導案」のような内容になっているのが分かるだろう。
中村先生は、「すべての生徒と教員が一対一で質疑応答するのが理想だが、現実には難しい。生徒同士で質問し合うのでは十分に読解が深まらない恐れがあり、紙のワークシートでは生徒の回答を受けて深掘りすることができない。そこで生成AIに、生徒一人一人をマンツーマンで学びを深める支援をさせた」と、そのねらいを語る。
図1: 終始生成AIを使うのではなく、生成AIとの対話で読解を進めた後は、一人一人が表現を吟味し、他者に伝える活動が行われていた。
「情報の授業」が支える生成AI活用
こうした取り組みによって、「主体的・対話的で深い学びへと授業を改善するために生成AIを使ってみよう」という考えがすべての教員に浸透し、今やさまざまな教科で生成AIが使われている。美術の時間では、自分が描いた絵と先生が提示した評価点を生成AIに読み込ませて評価させ、より良い作品づくりに活かしている。特別支援学級でも生成AIは用いられており、教科書や資料を読み込ませて、分からないところを質問して理解の助けとしているそうだ。
生徒たちは生成AIを日常的に活用しているが、出力結果を丸写しするようなことはない。自分の学びを深めるために、上手に活用できている。その背景には、「情報の授業」での学びがある。各学年・年間9時間行われる「情報の授業」では、6つのカテゴリーに基づいて生成AIを活用する場面や目的、使い方を学ぶが、それだけに止まらず、情報活用能力、言語能力、問題発見・解決能力という「学習の基盤となる資質・能力」を育成しているのだ(図3)。
生成AIを使用する場面、目的、ゴール、指導内容などが体系的にまとめられている。
これらの実践を通して、生徒たちは着実に成長している。生徒へのアンケートでは、約86%が「情報の授業は効果があった」と回答。表現力が高まり、自分の考えを掘り下げ、粘り強く学習に取り組むようになった。協働相手として生成AIを活用することで、級友との学び合いの質も高まった。「これからも生成AIを使いながら成長していきたい」と、生徒たちは意気込んでいるという。生徒たちの情報活用能力が向上することで、生成AIがあまり得意でない先生も安心して授業で使えるようになった。
「生成AIがなくても授業はできるが、生成AIを活用することで生徒たちの学びは深まり、一段と成長できている」と、教務主任の梅野哲先生は力強く語ってくれた。
学校の挑戦を支える
相模原市教育委員会
図4: 相模原市立中野中学校 教育DX推進課のポータルサイト(上・右下) Chromebook利用マニュアルチャットボット(左下)や「SAGAMIHARA教材factory LM」など、DX関連の情報をワンストップで提供している。 厚生労働省が公表している学級閉鎖データを読み込み、相模原市のインフルエンザ流行指数を可視化するウェブアプリも稼働していた。生成AIと相談しながらこのアプリを制作したという木原氏は、「生成AIを用いればウェブアプリも簡単に作れると先生方に知ってもらうのがねらい。教育データを利活用するアイデアにつながれば」と期待を寄せている。
相模原市立中野中学校における生成AI活用は、先生方の挑戦によって編み出された実践だが、こうした学校現場の挑戦を力強く後押ししているのが、令和7年度に新設された相模原市教育委員会教育DX推進課だ。
「SAGAMIHARA教材factory LM」。「指導案をゼロから自力で作れてこそ一人前の教師だとの意見もあるだろうが、若い先生にとっては大変な作業。たたき台を元にブラッシュアップする形なら、先生方の負担は減り、教材研究もしやすくなる」と、島田氏。出力結果をそのまま使うことがないよう、「たたき台にしてください」との但し書きが表示されるようになっている。
同課が立ち上げた教職員ポータルサイトには5月から、教員の日常的な困りごとに応じた、先進的な支援の仕組みが用意されている。例えば、Chromebook™ の操作方法を知りたい時は、市が作成した利用マニュアルを読み込ませたNotebookLM に質問することで、チャットボットがマニュアルの該当箇所を教えてくれる。教員は分厚い資料をめくることなく、必要な情報をすぐに確認でき、校務の負担軽減につながっている。
授業づくりに関する支援としては、「SAGAMIHARA教材factory LM」が用意されている。これは Gemini™ の Gem を活用したもので、学年や教科、単元、ねらいなどを入力していくと、指導案やワークシートのたたき台が生成される。また、学習指導要領を読み込ませた NotebookLM も作成している。単元のねらいや評価の観点について質問すると、学習指導要領の該当箇所を示しながら回答が返ってくるため、教員の指導案づくりや授業研究を効率的かつ効果的に進められる。
制作にあたった指導主事の木原智裕氏は、「教材研究や指導案づくりにかかる労力を軽減し、子供に関わる時間を増やすのがねらい」と語りつつ、真のねらいはもっと深いところにあると続ける。生成AIの利便性や可能性を教員に伝えることで、新たなアイデアの創造や意識改革を呼び起こし、教員一人一人が授業や校務をより良い形に更新していくことを期待しているのだ。「例えば、生成AIを使えば、自分の課題や知りたいことを、自分のタイミングで探究的に学べる。これが教材研究や自己研鑽の新しい形なのだと先生方に知ってほしい」と総括主幹の島田真人氏は言う。
相模原市では生成AIやICT活用について先生方の自由な発想を促すツールだと捉えている。
「教育委員会が学校に『ICTをこう使ってください』と『フレーム』を押しつけるのではなく、活用の例を示すにとどめ、どう使うかの判断は学校に委ねる。そして学校現場と教育委員会が一緒になって、よりよいDXにつなげていく。この姿勢が本市の特徴であり、『相模原スタイル』だ」と、島田氏は力強く語ってくれた。中野中学校の生成AI活用も、こうした気風だからこそ生まれた実践だといえる。
フレームではなくスタイルを示す
「そもそもDXとは単なるデジタル化ではなく、これまでの常識を問い直し、より良い形へ変えていくこと」だと佐伯正和課長は訴えかける。行政職として市長部局のDX推進課長を3年間務めた後、現職に就いた佐伯氏は、教育分野のデジタル化は発展途上にあると肌で感じたという。
「今まで通りを続けていたのでは教員はますます多忙を極め、教員志望者は減少の一途をたどる。このままでは、近い将来、公教育がもたなくなる恐れがある。これまでの常識にとらわれず、スピード感を持って、変えていきたい」と佐伯氏は強い危機感をにじませる。
例えば、オンライン授業ならば、異なる地域の子供たち100名が一緒に授業を受けることも可能であり、実現すれば教員不足問題の解決につながる可能性があるほか、多様な相手と学ぶことで子供はもっと成長できるかもしれない、と佐伯氏は一案を語った。教育畑出身でない分、佐伯氏はとても柔軟な発想と共に、先生方の幸福を真剣に考えている。
「常識を変え、教育DXで先生がやりがいやワクワクを感じられる、先生方が本当にやりたい教育を実現できる環境を作るのが、我々の使命。相模原市で先生になりたい!と希望する人を増やしていきたい」と、佐伯氏は締めくくった。その言葉からは、相模原市の未来を切り拓こうとする、強い覚悟が伝わってきた。
※Chromebook、Gemini は、Google LLC の商標です。
相模原市立中野中学校
相模原市立中野中学校
副校長
上野 勝己 先生
相模原市立中野中学校
総括教諭 教務主任
梅野 哲 先生
相模原市立中野中学校
国語科担任 生徒指導主任
中村 剛 先生
相模原市教育委員会
相模原市教育委員会
学校教育部 教育DX推進課
課長 佐伯 正和 氏
相模原市教育委員会
学校教育部 教育DX推進課
総括主幹 島田 真人 氏
相模原市教育委員会
学校教育部 教育DX推進課
指導主事 木原 智裕 氏
相模原市教育委員会
学校教育部 教育DX推進課
指導主事 須藤 雄紀 氏