公開日:2026/5/12
那須塩原市教育委員会が進める対話から始まるICT運用と教育DX
―栃木県―
那須塩原市教育委員会
那須塩原市教育委員会は、ICTを 「未来を生きるための基礎能力」と位置付け、現場とともに教育DXを推進してきた。対話を基点とした運用設計、生徒理解につながるデータ利活用、生成AIや多様なツールによる情報発信など、実践に根ざした取り組みについて話を伺った。
那須塩原市教育委員会
〒329-2792
栃木県那須塩原市あたご町2番3号
ICT活用は
“社会を生きるための基礎的な力”
「ICTは特別なスキルではなく、これからの“社会を生きるための基礎的な力”だと考えています」と語るのは、那須塩原市教育委員会 学校教育課 学校みらい係で指導主事を務める加藤雅明氏だ。同市では、その考え方を軸にGIGAスクール構想を推進してきた。「使わせるICT」ではなく「自然に使えるICT」を基本方針とし、家庭学習も含め、日常の学びの中で無理なくICTが活用される環境づくりを進めている。児童生徒1人1台端末は持ち帰ることを前提として整備、教員用のデジタル教科書を全教科で導入することで、授業設計や教材提示の効率化を進めた。持ち帰りの端末で時間設定やフィルタリングがきちんとしており、保護者にとっても安心いただける環境を提供している。その結果、ICTを前提とした授業づくりが既に根付いているという。こうしたICT活用の根底にあるのが、学校現場との継続的な対話である。
対話から生まれるICT運用の深化
「運用は教育委員会だけで決めるものではなく、学校の思いを大切にしながら一緒に進めていくものだと考えています」(加藤氏)
その取り組みとして挙げられるのが、グループチャットの運用と年4回開催される学校ICT運用委員会だ。
同市教育委員会と各校の情報主任との間を結ぶグループチャットでは、端末利用に関する相談をはじめ、Webサイトのフィルタリングに関することなどをリアルタイムに共有し、迅速な改善や学校間での横展開につなげている。
また、校長、教頭、教務主任、情報主任、指導主事で構成される学校ICT運用委員会では、現場で生じている問題や改善点を率直に話し合っているという。
この「対話型」のICT推進こそが、教育DXを支える大きな土台といえるだろう。
ICT運用を陰で支えるフィルタリングサービス
同市で進めるICT活用を陰で支えるのが、Webフィルタリングサービス『InterCLASS®Filtering Service』である。Webフィルタリングは、完全な遮断ではなく、危険から児童生徒を守りつつ、安心して学びに集中できる環境を整える“見守る仕組み”として機能している。
導入にあたって、Chromebook™、Google Workspace™ との高い親和性を重視するとともに、「児童生徒の学びの自由を守りつつ安全面もしっかり確保できることを一番大切にしました」と同係の竹内寛晃氏は振り返る。
そのほか、「端末利用の時間帯を調整できる柔軟性」や「年次更新や例外申請が容易で、現場に負担をかけない運用性」も重要な選定基準だったと語る。
那須塩原市では、現場の先生方の意見を参考にして小学生は6時から21時まで、中学生は6時から22時までと、端末利用が可能な時間設定を採用。授業や学習目的に応じてWebサイトのカテゴリも制限しているが、教職員については児童生徒とは異なるポリシーで運用し、校務や授業に支障が出ないよう配慮している。
なお、基本的には教職員に対しても児童生徒と同様のChromeBook端末を配備して運用しているが、故障が多発した場合には教職員の端末を児童生徒に回すことで、「学びが止まってしまうことがないよう、できるだけ柔軟に対応している」と加藤氏は話す。学校に付与する機器には専用のフィルタリング設定がされているが、万が一、授業で必要なWebサイトがブロックされた場合には、教員が Google フォームから申請すると市教委側がホワイトリストへの反映を行う仕組みだ。「申請があれば速やかに対応することを心がけています。安全と使いやすさの両立は、常に意識しているポイントです」(竹内氏)
ダッシュボードによるデータ利活用
フィルタリングと併せて導入されたのが、『フィルタリングダッシュボード』(図1)である。「閲覧履歴の確認とともに端末の活用状況を可視化できる点は、GIGAスクール構想第二期で求められる『データに基づく教育改善』とも適合します」と加藤氏は語る。
現在は、トラブル発生時に、該当する児童生徒のログを確認するなど、児童生徒指導に関わる場面での活用が中心だ。例えば、落書きや不適切な書き込みなどのトラブルが起きた際、アクセス履歴や入力履歴を確認することで事実関係を客観的に把握できる。「感覚や推測ではなく、ログという“事実”を基に確認できる点が大きいですね」(加藤氏)
一方で、市教委ではダッシュボードを指導専用のツールに留めず、アラート機能の活用による、より早期のリスク検知も視野に入れた運用を検討している。「トラブルが表面化してから対応するのではなく、兆しの段階で気づき、子どもたちを守ることができる環境を目指しています」(加藤氏)。データに基づく見守りは、指導の質を高めるだけでなく、教職員の負担軽減や対応の属人化を防ぐ効果も期待されている。また、「ダッシュボードにより利用状況を可視化することで、生成AIの安全な活用も推進していきたい」(加藤氏)と、利便性とリスク管理をデータドリブンで高度化していく構えだ。
AIもフィルタリングも“学びを支える道具”
那須塩原市では今後、GIGAスクール構想第二期に向け、1人1台端末の更新、校務系・学習系ネットワークの統合、既存ネットワークの増強、学校ホームページの見直しなど、さらなる環境整備を進めていく予定だ。併せて今後は、アクセス制御や認証の在り方を含めたゼロトラスト環境への移行についても、段階的な検討が進められている。
「こうした環境整備に加え、電子黒板を活かした授業改善や生成AIの活用を通して、先生方の負担を少しでも軽くし、本来の授業づくりに時間を使ってもらうことが一番の目的です」と加藤氏。市教委では、教員のみが閲覧できる Google サイトを立ち上げ、先生方に必要な情報を整理し、随時共有している。
現在の生成AI推進は、Googleが提供する生成AI「Google Gemini™」が中心だ。授業支援や教材加工、翻訳、資料作成、保護者向け文書の下書きなど、さまざまな場面で活用が進んでいるという。
今後、生成AIの活用が必要不可欠な社会へと進むなかで、児童生徒や教職員が「どのようにAIを使っているのか」を把握しながら安全に活用していくことが重要となる。そのための基盤として、フィルタリングダッシュボードによる可視化機能は、教育DXにますます欠かせない存在になるだろう。端末、ネットワーク、電子黒板、生成AI、そしてダッシュボード。
各ツールが連動しながら組み合わされることで、那須塩原市のICT活用は、より立体的で確かなものへと進化していく。
地域とつながるICT
広がる情報発信
教育委員会をより身近に感じてもらうことを目的として、那須塩原市教育委員会では令和7年度より新たにInstagramの運用が始まった。
海外派遣事業やALTとの交流、文化活動などの様子を発信するなどして、徐々にフォロワー数も増えてきているという。ICTを活用した情報発信は、学びの現場に留まらず、地域と学校、保護者と教育委員会をつなぐ役割も担い始めている。その取り組みは、これからの時代の教育の在り方を、静かに確実に形づくっていく。
※Chromebook、Google Workspace、Google Gemini、Google フォームは、Google LLC の商標です。
※Instagram は、Meta Platforms, Inc. の商標です。
那須塩原市教育委員会
学校教育課 指導主事
加藤 雅明 氏
那須塩原市教育委員会
学校教育課 主事
竹内 寛晃 氏