公開日:2026/4/17
東大阪市立布施小学校が進める教育DX
学校訪問「子供が自ら学び続ける授業と、その『仕組み』」
―大阪府―
東大阪市立布施小学校
令和6年度からリーディングDXスクール事業の指定を受けている東大阪市立布施小学校は、わずか2年あまりという短期間で、大幅な授業改善を進めてきた。この日の公開授業には市内外から約350名もの教職員が視察に訪れ、子供一人一人が自走して探究的な学びを深める姿に見入っていた。なぜこのような授業が成立しているのだろうか。

東大阪市立布施小学校
〒577-0845 大阪府東大阪市寺前町2丁目1−6
子供が自走する授業
〜個別と協働で学びを深める〜
6年1組社会科の授業を取材して、まず目に飛び込んできたのは、子供たち一人一人が迷うことなく、探究的な学びを力強く進めていく姿であった。
授業冒頭、担任の保井拓也先生は、 Google Classroom™ で本時の「学習の手引き」(図1)を配布した。前時に子供が作成したスライドをもとに、前時の学びを簡単に振り返った後、今日のルーブリックをそれぞれの端末で確認するように指示。そして保井先生は、「では、学習の手引きを見て、いつもと同じように進めよう」と一言告げただけで説明を終えた。授業開始から、ここまでわずか数分である。
本時の課題や学習の流れ、情報収集や整理分析のポイント、使いたい見方・考え方などが示されている。
次の瞬間、子供たちは一斉に端末や教科書に向かい、情報を集め、整理し、自分なりにまとめる作業へと、それぞれのペースで学習を進め始めた。誰一人として「何をすればいいのか」と立ち止まる様子は見られない。教科書を読み込みながら要点を書き出したり、思考ツールを使って情報を整理したり、友達の Google スライド™︎ やチャットを参照しながら考えを深める姿が、教室のあちこちで見られた。一人一人が、見事に「自走」していた。
その間、保井先生は教室内を巡り、一人一人の様子を見取って声をかけていた(上段写真参照)。「時間の流れに注目して考えているのがいいね!」「友達のスライドを参考にしているのがいいね!」。子供の考えや学び方を拾い上げ、価値付けしながら、全体へと広げていく。同時に、困っている子供には個別に指導もする。授業は終始活気に満ちており、子供たちは頭をフル回転させながら、学びを深めていった。
なぜ子供は自走できるの
〜学びを支える仕組み〜
こうした授業は、6年生の社会科授業に限らない(図2参照)。リーディングDXスクール指定校であり、大阪府の「スクール・エンパワーメント推進事業」モデル校でもある同校では、どの学年・教科でも、同様の授業が行われている。
この背景には、東大阪市が掲げる「一人一人が自ら学ぶ力を育む」という理念がある。「個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させ、探究的な学びを深めていくことを重視している」と、東大阪市教育委員会みらい教育室総括主幹の石原孝則氏は語る。
この考え方は、次期学習指導要領の方向性とも重なる。2年前から布施小学校を指導・助言してきた京都教育大学で講師を務める大久保紀一朗氏は、「自己調整しながら学び続ける力が、これからの学びの中核になる」と指摘する。
こうした力を子供たちに育むために、授業の在り方を見直し、
その手段として教育DXを進めていく――。それが、東大阪市の基本的な考え方であり、その方針を具体化してきたのが布施小学校だ。
ではなぜ、布施小学校の子供たちは自走することができるのか。その答えは、子供が自ら学ぶための「仕組み」を、先生方が一つ一つ作り上げてきた点にある。
第一の仕組みが、全学年・全教科で活用されている「学習の手引き」だ。これは、本時の課題やゴール、学習の進め方の例、ルーブリックなどを整理したもので、子供はこれを参照しながら学習を進めていく。学びを進めるための「道しるべ」が示されているからこそ、子供たちは自走できるのだ。
同校では、思考ツールの活用と情報活用能力の体系的な育成にも力を入れている。思考ツールについては、それぞれの特徴を理解した上で、目的に応じて使い分けられるように指導。特に6年生では、朝の15分間の「情報の時間」でしっかり学んでいる。この「情報の時間」は、情報活用能力を学ぶための帯活動であり、第二の仕組みと言える。
一人一人が自走して学習を進めるには、情報活用能力が不可欠だ。次期学習指導要領でも、総合的な学習の時間に「情報の領域」を設けて、情報活用能力の育成に取り組むことになる。それを見据え、布施小学校ではまず6年生で「情報の時間」を設けて学んでいる。今後は4、5年生にも広げていく予定だ。
さらに第三の仕組みとして「情報活用能力ステップシート」(図3)を作成し、低・中・高学年ごとに育成すべき力を体系化している。「基本的な操作」「情報セキュリティ・情報モラル」「情報活用」「プログラミング」の4つの観点で整理された情報活用能力を、日々の授業の中で意識的に育むようにしているという。
これらの仕組みを用いて、子供が自ら学べるようになるために、初期指導にも力を入れている。特に一年生の一学期は、一斉授業の中で、学習の手引きを使いながら「どのように学習を進めるのか」を時間をかけて身につけさせる。また思考ツールの種類や使い方(図4)、協働する相手の選び方も指導する(図5)。一人一人が自走して学ぶ時、教科書はとても重要な情報源となるため、教科書を読み解く方法もしっかりと教え込む。こうした初期指導を経て、徐々に先生からの支援を減らし、自走させていくようにしているのだ。
子供が自走しているからといって、先生の関わりが少ないわけではない。一人一人の学びを先生が丁寧に見取り、適切な支援を行っている。6年1組の授業では、保井先生が教室内を巡りながら、一人一人の学習を正確に見取り、ほめて価値付けし、学級全体に広げ、子供たちの学びをファシリテートしていた(図6参照)。
授業の最後に必ず振り返りの時間を取っていることも、子供の自走を促している。「何を学んだかだけでなく、どう学んだかを振り返って、よりよい『学び方』を考えることで、もっと質の高い学びを自走できるようになる」と、大久保氏は言う。
そして布施小学校では以前から探究的な学びに継続して取り組み、学習規律や学級経営を大切にしてきた。その土台の上に、「学習の手引き」といった「仕組み」を積み重ねることで、子供が自走する学びが成立しているのだ。
試行錯誤の先にたどりついた授業改善
現在では、子供が自走して学ぶ授業が日常の風景となっているが、ここに至るまでの道のりは、決して平坦ではなかったという。リーディングDXスクール指定校になった1年目は、授業に参加できていない子供が散見され、先生方からは授業改善に対する戸惑いの声や「私は一斉授業をしたい」という声もあがったという。池田ゆり
校長は、「最初の半年間は、どうする? と迷いながら走っていた。気持ちばかりが急いて、私自身もすごく不安だった」と当時を振り返る。
転機となったのが、GIGA先進校である愛知県春日井市への視察だった。春日井市の学校を訪れた先生方は、子供たちが自己選択・自己決定しながら学ぶ姿に驚き、授業改善の具体的なイメージをつかんでいった。まさに「百聞は一見にしかず」である。そして大久保氏や石原氏の指導・助言を受けながら、「失敗してもいいから、まずはやってみよう」「学びを子供に委ねてみよう」と、授業が変わり始めた。
校内では、三浦先生が先頭に立って、授業を変えていった。 Google Workspace for Education™︎ を活用した探究的な学びに挑戦してみたところ、子供たちは想像以上に自分たちで意欲的に学習を進め始めた。これまでの授業では見られなかった姿を見て他の教員は驚くとともに喜び、「授業が楽しくなってきた」と三浦先生は話す。
授業改善をさらに後押ししたのが、チャットを活用した授業研究だ。布施小学校では、リーディングDXスクール指定を受けてまず校務DXに着手した。「東大阪市では、GIGA端末の活用を授業に広げていくためには、まずは校務で使い慣れてもらうことが大切だと考えている」と、教育委員会の石原氏は語る。そのため市教育委員会では、校務書類のテンプレートなどを集約した校務DXポータルサイトを立ち上げたり、集合研修で共同編集やチャットによる情報交換を体験してもらったり、市教委と学校との連絡をチャットで行うなど、校務DXを後押ししてきた。これを追い風にして、布施小学校でも校務DXが着実に進展。教員間の情報共有をクラウド上で行うようになり、毎朝行っていた会議を廃止するところまで校務DXが進んでいた。
この経験を活かし、先生方は日々の授業の様子をチャットに投稿するようになった。他の先生はそれを見て質問したり、大久保氏がチャット上で助言したりすることで、授業改善の輪が広がり、スピードも上がったという。「職員室でも、教員同士が授業について日常的に語り合うようになった」と、浦上太一教頭は振り返る。
こうした環境下で、授業の中身も次々とアップデートされていった。例えば「学習の手引き」に教科の「見方・考え方」を盛り込み、「見方・考え方」を意識的に働かせて学びが深まるようにした(図7参照)。大久保氏から「インプットに比べてアウトプットの時間が少ない。協働する場面が不足している」との指摘を受けた際には、翌日には授業を見直し、子供たちが対面でしっかりと議論する時間を設けたという。現状に満足することなく、授業を改善し続けたからこそ布施小学校の今の姿があるのだ。
授業改善と子供の成長を支える明るい校内環境
布施小学校の子供たちは、着実に成長している。約9割の子供が、「自分に合ったペースで学習できている」と回答。全国学力・学習状況調査の活用問題でも、国語・算数とも前年度比で正答率が向上している。2年前に見られた「授業に参加しない子供」は、今や一人もいない。
なぜ、止まることなく授業改善を続けることができたのかと先生方に尋ねてみたところ、意外な答えが返ってきた。
「本校はとても風通しがいいんです。なんでも相談できるし、つらい時は愚痴もこぼせるし、楽しい時はみんなで共有できる」と三浦先生は言い、「先生が楽しんでいるから、子供も楽しい」と笑顔を見せた。
こうした前向きな雰囲気を作り上げているのが、池田ゆり校長だ。「この2年を振り返ってみると、最初こそ不安でしたが、とても楽しかった。先生方が日々どんどん変わっていく姿を見るのが、校長として嬉しかった」と池田校長は話す。とても明るく、エネルギッシュな池田校長が、失敗を恐れずに挑戦しようと後押しを続けたからこそ、先生方は安心して授業改善を続けられたのだろう。
最後に、池田校長は、「子供たちには、社会に出たときにリーダーになってほしい。もっともっと子供たちには伸びてほしい」と力強く語ってくれた。
布施小学校の挑戦は、これからも続く。この日の公開授業には、東大阪市内のすべての小中学校から先生方が視察に訪れ、大いに刺激を受けていた。かつて布施小学校が春日井市を視察して変わったように、今度は布施小の実践が市内の学校を動かしていくことだろう。
※Google Workspace for Educaion、Google Classroom、Google ドキュメント、Google スライド は、Google LLC の商標です。
東大阪市立布施小学校
校長
池田 ゆり 先生
東大阪市立布施小学校
教頭
浦上 太一 先生
東大阪市立布施小学校
情報活用担当
三浦 光雄 先生
東大阪市立布施小学校
教諭
保井 拓也 先生
東大阪市教育委員会
みらい教育室総括主幹
石原 孝則 氏