公開日:2020/12/25
「学びを止めない」土台づくりを
日常的な活用でICTスキルを育む
―岡山県―
笠岡市立今井小学校
GIGAスクール構想によって、今年度中に「1人1台」環境が実現する予定の笠岡市。市立今井小学校では臨時休業期間がきっかけとなり、一足先に「1人1台」の実践に取り組むことになった。
笠岡市立今井小学校
〒714-0022
岡山県笠岡市今立30番地
1875年創立。「心豊かで自らを伸ばす児童の育成」を学校教育目標とする。全校児童50名未満、複式学級をもつ過小規模校である。地域との絆が強く、家庭的な雰囲気の中で子供たちは伸び伸びと学んでいる。
臨時休業をきっかけにスタートした「1人1台」
2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて突然始まった臨時休業。笠岡市では春休みが明けた新学期には通常どおり授業が再開されたが、4月20日に再び休業となった。
休業期間中の家庭学習には昨年度導入したオンライン個別学習教材などを利用したが、全ての家庭に端末やネットワーク環境が整っているわけではなかった。
4月以降も休業が続く中、市立今井小学校では、各家庭に貸し出せる端末を用意するため「Google for Education™️ 遠隔学習支援プログラム」の利用に踏み切った。Google社が臨時休業期間の学校支援策として「Chromebook™」と「G Suite™」を無料提供するプログラムだ。これによって1人1台の端末がそろい、5月10日から各家庭に配付することができた。
保護者から「動画サイトを見たり、ゲームをしたりすることが心配」という声があったため、不要なサイト等にアクセスができないよう学習用のサイトをホワイトリスト化する方法をとった。
端末を配付して以降、一部の学級では担任と児童がテレビ会議システムを使って会話をする等、一定の成果が見られたが、「端末を十分に活用できていたとはいえない」と髙橋伸明校長は話す。
「5月25日に授業を再開することができましたが、同じような事態に備えておく必要性を強く感じました。いざというときに学習を充実したものにするためには、普段からオンライン学習を想定した授業の方法に慣れておく必要があります。今すぐ始めなければ、と思いました」
「学びを止めない」土台づくりを
貸し出し端末は、授業再開後も7月末まで利用できることになった。GIGAスクール構想に伴う市の整備で1人1台の学習者端末がそろうのは2学期後半となるが、まずは端末を返却するまでの間、現状の「1人1台環境」を最大限活用して、毎日の授業でPCを使うことにした。
まず、廊下に充電保管庫を置き、気軽にPCの出し入れができるようにした。PC教室以外の場所にPCが置かれたのは初めてで、これだけでも全く新しい環境となった。
授業再開後はホワイトリストによる制限を解除し、どのサイトへも自由にアクセスできる状態で使用している。Googleアカウントによって児童のアクセスログを把握できるため、その事実を児童に伝え、また「怪しい画面が出てきたらすぐに先生に報告をすること」と指導している。「検索ができない、必要な動画が見られないとなると、『学校のPCは不便』という印象をもたれてしまいます。それは望ましくありません」
また、タッチタイピング技能向上のため、児童にキーボード入力検定サイトを利用したトレーニングに挑戦させることにした。
2013年の文部科学省の調査では、小学生のキーボード入力が1分間に平均5.9文字という結果が出ている。また、OECDの国際学力調査「PISA2018」の結果で読解力が大幅に低下したことは、CBT方式(コンピュータを使ったテスト)に慣れていないことが原因であるとの指摘がある。同時に行われたアンケート調査では、学校の授業でのデジタル機器の利用率において日本は最下位であり、逆に、ゲームやチャットを利用する割合は最も高かった。
髙橋校長はこれらの事実に触れ、「機器の整備だけでは活用が進みません。タッチタイピングを始めとしたスキルが伴って初めて、コンピュータが学習のツールとして成立するのです」と語る。
「いつでもどこでも」学びを止めないためにICTの活用が必須であるならば、それを活用するスキルもまた、必須の要素といえるだろう。
わずか1ヶ月で当たり前の光景に
この日、5年生の教室では理科、6年生の教室では総合的な学習の時間の授業が行われていた。
理科では植物の成長に関する観察の結果を、総合的な学習の時間では「日本の文化」について調べたことを、それぞれGoogleスライド™を使ってまとめていく。ワークシートはGoogle Classroom™を使って配信されたものだ。
教室でPCを使い始めてからまだ1ヶ月程度にもかかわらず、子供たちは落ち着いた様子で文字を入力したり、画像を挿入したりしている。時折「文字を入力する枠を広げる方法を教えて下さい」「図を大きくするにはどうするのですか」などの質問が出て、ICT支援員や担任が指導する様子が見られた。
5年担任の篠原美奈子先生は「子供たち自身がPCの必要性を感じていた」と話す。「前の学年のときにもPC教室でPCを使ったことがあったので、便利な物だということが頭にあったようです。調べ学習のための検索はもちろん、今回1人1台が配られたことで『文字の入力が速くなりたい』という意欲が高まって、休み時間にも練習をしています」
「わざわざPC教室に移動する必要がないので、すきま時間にも使えるようになった」と話すのは6年担任の桒田将典先生。「教室で必要なときに使えるので、可能性が広がりました。配信する課題の準備などはICT支援員の方に支援していただいています。私自身も教えてもらいながら、少しずつ取り組んでいます」
学校と家庭をシームレスに
今年度中には市として本格的に「1人1台環境」での取り組みが始まる。髙橋校長にビジョンを伺った。
「再び臨時休業のような事態になればもちろんですが、ゆくゆくは、日常的にPCを持ち帰ることも想定しています。子供たちのスキルが上がっていくことでPCが学習のツールとして定着し、学校でも家庭でも同等の学習環境が成立するのではないでしょうか」
市ではWiFi環境がない家庭にルーターを貸し出す方針も検討している。
「これまで台数としては3人に1台がそろっていても、普通教室でPCを使うという発想はありませんでした。今回は台数もさることながら、教室のそばに保管庫を置いたことで、先生方も『あるなら使ってみようか』という意識になったと思います。実際に使ってみれば良さが実感できますし、子供たちは、機会を与えられれば自然に使い方を覚えていきます。この状況を経験できたことで、市の端末が導入された際にもスムーズに活用が進むでしょう」
先生も子供たちも活用する中で自然とスキルアップし、さらに活用の幅が広がっていく。そんなサイクルができつつあるようだ。
*Google for Education、Chromebook、G Suite、Google スライド、Google Classroom は、Google LLC の商標です
校長
髙橋 伸明 先生
6年担任
桒田 将典 先生
5年担任
篠原 美奈子 先生