公開日:2021/11/14
半年間でここまでできる! 「未来の先生」たちの模擬授業
―長野県―
信州大学教育学部
GIGAスクール構想により学校のICT環境整備が進む中で、教員のICT活用指導力向上が急務となっている。大学等の教員養成課程ではどのような学びが求められるのだろうか。
信州大学
長野(教育)キャンパス
〒380-8544 長野県長野市西長野6のロ
教育学部では「臨床の知」を基本理念とし、体系的な教員養成カリキュラムを提供する。現場で個々の子供たちと向き合う「臨床力」を育むための教育内容・方法が充実しており、全学年を通じて大学内外の学校現場・社会教育施設等で学ぶことができる。
情報機器活用指導法
信州大学教育学部では、早くから教育の情報化に対応できる教員の養成に取り組んできた。
教職課程では2000年度以降の入学者から「情報機器の操作」が必修化されている(教育職員免許法施行規則による)。同大学ではこれに該当する「コンピュータ利用教育」を、いち早く1996年の入学者から必修科目とした。附属教育実践総合センター(現 附属次世代型学び研究開発センター)が中心となり、授業内容の高度化を図るとともに、教育実習でのICT活用必須化にも取り組んできた。
また、さらに具体的な内容に踏み込んだ大学独自の科目として、「情報機器活用論」「情報機器活用指導法」を3・4年次での選択科目としている。
今回はこのうちの「情報機器活用指導法」について、今年度から新しい試みを行っている佐藤和紀先生にお話を伺うとともに、最終の授業を取材した。
大学では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で前期の授業は対面での実施がかなわなかったが、後期には対面での授業が一部再開した。「情報機器活用指導法」では「オンデマンド」を含め「対面授業」と「双方向オンライン授業」、それらを同時に実施するハイブリッド型など、さまざまな手法でフレキシブルに授業を行ってきた。(図表1参照)
信州大学では多くの授業が大学独自のポータルサイトをプラットフォームとして運営されているが、この授業はGoogle Classroomを中心に運営されていることも特徴だ。課題はGoogle Classroom上で配信され、Googleドライブ上に提出する。
佐藤先生に聞く
情報機器に関する授業の中で、「情報機器活用指導法」の特徴はどういったものですか?
佐藤先生(以下敬称略) ICT活用指導力の育成においては、各教科の指導法、授業の展開のしかた、そしてクラウドの使い方とさまざまな要素があります。そして、教科の指導法などの細かい知識を身につけるためには、それぞれ別の科目があります。ですから、「情報機器活用指導法」ではとにかく「リアルな授業実践を見て、真似てもらう」ことに挑戦したつもりです。シャドーイングといいますが、見たままに真似をして、最終的に模擬授業までしてもらいました。カリキュラムとしての体系化はまだこれからですが、こういった方法は非常に有効で、必要とされる時代になっているのではないでしょうか。半期の授業を終えてみて、今の学生たちの姿を見ると、授業は成功だったと思っています。
授業実践映像を中心とした活動について詳しく教えてください。
佐藤 学生たちに1人1台の情報端末を活用した実際の授業映像を見てもらって、各自が分析したことをまとめてプレゼンしてもらったあとに、授業映像の授業者の先生からお話しいただくというサイクルです。公立小学校で1人1台の情報端末を使った実践で活躍されている3名の先生方にお願いして、それぞれそのサイクルを繰り返しました。教員養成課程で学んでいる学生たちの多くは、子供同士による活発な意見交換や発表などといった協働学習に憧れをもっています。ですからその中で、1人1台の情報端末を活用した授業を実際に見てもらいました。3つの授業映像の順番は、だんだん高度な内容になるようにしました。
このサイクルの中で、学生の皆さんにはどのような変化がありましたか?
佐藤 1回目の授業映像を見せたとき、学生たちは大変驚いていました。1人1台の情報端末を使った授業を見るのは全く初めてだったようです。ところが、映像を見ることで次第に具体的なイメージができてくると、それを当たり前のこととして捉えるようになっていきます。学生たちのプレゼンテーションの内容や発言から、回を追うごとに授業分析の質が上がっていると感じました。
具体的な授業のイメージを共有しないままGIGAスクール構想のポイントについて言葉で説明しても、伝わりづらいと思います。子供たちが情報端末を使いこなしながら生き生きと活動している姿を見ることで、GIGAスクールの必要性を肌で感じてもらえたのではないでしょうか。
この授業自体をGoogle Classroom上で行うことで、体感しながら学んでもらえたことも多かったと思います。例えば授業の中で「ファイルはクラウドに上げておいてください」「みんなに共有してください」などの指示をすることがあります。これらはクラウドを活用した授業ならではの指示です。小学校の教室でもこういった指示がすんなりと伝わるような「文化」をつくることが大切だと、学生たちには伝えています。
半期で学生たちは大きく変化しました。それを象徴しているのが、終盤には「1人1台の情報端末のない授業は想像できなくなってきた」と話す学生すら出てきたことです。学生たちの意識がそこまで大きく変わるとは正直予想していませんでした。
授業レポートGoogle Classroom を使った模擬授業に挑戦!
①プレゼンテーション
「教師と学習者」それぞれの視点で1人1台の情報端末のメリットを考察したり、「私たちがこれまでに受けてきた授業とどこが変わる?」と具体例を挙げたりするなど、学生たちが「自分たちの言葉で」話していることがよく伝わってくるプレゼンテーションであった。
②模擬授業
グループごとにバラエティーに富んだ内容の授業が提案された。G Suiteの各ツールの特徴をふまえ、活動内容に合わせて適切なツールを選んでいるのも見どころだ。事前課題としてGoogleフォームでアンケートをとり、その結果を授業の冒頭で提示したグループもあった。
児童役の学生たちの「共同編集作業」は、向かい合って行うグループ、横一列に並んで行うグループ、マイクを囲んで遠隔参加の学生と一緒に行うグループなどさまざまだ。改めて、物理的な制約を受けないクラウドの特長が浮き彫りになる。
グループごとの模擬授業
授業の概要紹介
学生に聞く
この授業を履修したきっかけはなんですか?
髙橋さん(以下敬称略) 正直に言うと、内容をよく知らないまま履修を決めた授業でした。
もともと情報機器の操作には苦手意識があって、最初はついていけるかどうか不安でした。小学校の授業でICT機器を使うことに対しても、以前は「大変になる」「難しそう」というイメージが強かったです。
熊澤さん(以下敬称略) 私も、授業を履修する前は、具体的なイメージはそれほどありませんでした。
実際に授業を受けて、どう感じましたか?
熊澤 初めて授業の動画を見たときは、「1人1台」の光景に目が点になりました。さらに子供たちが情報端末を使いこなしていることにもっと驚きました。ショートカットキーなども使っていて。もっと難しいものだと思い込んでいましたが、子供にも十分使えるのだと思いました。
髙橋 授業実践の映像を見るうちに「あれ?これまでのイメージとは逆で、授業がやりやすくなっているんじゃないか?」と思い始めました。G Suiteにはたくさんの種類のツールがあって、いろいろな学習活動に使えることもわかりました。
ほかに、考えの変化はありましたか?
熊澤 1人1台の授業を見慣れてくると、そうでない授業の様子を見たときに「1人1台ならば、こういう方法も可能になるな」とアイデアが出てくるようになりました。この授業自体がGoogle Classroom やG Suiteを使っていたので、ツールの使い方は自然とわかってきました。
髙橋 初めはほとんど知らなかったGIGAスクールのことも、周りの友人と意見を共有するうちに自然と身についてきたと思います。GIGAスクールを前提として物事を考えられるようになったことは本当に大きな変化です。
模擬授業まで終えて、どう感じていますか?
熊澤 これからの学校現場でどんどん使われるようになるものだと思うので、今のうちからここまで体験できたことはとてもありがたいと思っています。授業動画を見るところからずっと、周りの友人との意見の共有を中心に授業が進んできたので、「勉強した」という感覚があまりないのです。それでもこんなにたくさんのことが身についたのがなんだか不思議という気持ちです。
髙橋 最初は不安でしたが、本当に楽しく学ぶことができました。今では、ICTを活用した学習に自信があります!
*
近い将来、教師としてGIGAスクールの環境で大いに活躍することが期待される。学生たちの頼もしい姿を見ることができた。
*G Suite、Google Classroom、Google Jamboard、Googleフォーム、Googleドライブ、Googleスライドは、Google LLC の商標です
教育学部 学術研究院
教育学系 助教
佐藤 和紀 氏