管理職経験を生かし、セカンドキャリアで学校現場のICT活用を支援

ICT活用をGIGAスクール運営支援センターとして支える

前橋市GIGAスクール運営支援センターの笠原晶子先生に聞く

公立学校における女性管理職はまだ約2割と少ない。子育てや介護など自身の生活と仕事の両立に難しさを感じる先生が多く、女性リーダー育成のための環境づくりが求められている。現役時代に校長まで務めた後、セカンドキャリアではICT活用のサポーターとして活躍する前橋市GIGAスクール運営支援センター 支援員リーダーの笠原晶子先生に、管理職の資質やセカンドキャリアの考え方について伺った。

子育て期は家族の協力や行政・民間サービスを活用

 公立学校の校長や教頭など管理職に占める女性の割合が少しずつ増えている。元群馬県前橋市立細井小学校の校長で、現在は前橋市GIGAスクール運営支援センター 支援員リーダーを務める笠原晶子先生は、「今の時代において、小学校の管理職に求められるのはフレキシブルな対応です」と語る。

 「私は在職最後の年にコロナ禍という予測不可能な変化に見舞われ、素早く情報を収集して決断する勇気の必要性や、即時対応の大切さを痛感しました。社会の変化を受け入れて柔軟に対応しつつ、学校の経営理念などを軸として自身の立ち位置をしっかり持つことが重要です」(笠原先生)

 笠原先生は2児の母でもある。特に子供が小さいときは仕事と家庭を両立させるのに、家族の協力が欠かせなかった。家族が互いにそれぞれできることで協力し合うのが一番大切だと考えており、状況が許せば、親など親族を頼ることも大いにしていいのではないかと話す。

 「ライフステージ全体で考えると、自分の子供が小さいうちは親のサポートを受けますが、子供が独り立ちする頃には自分の親の介護が始まるといったように、自分が協力してもらうだけでなく、いずれ恩返しするタイミングが訪れます」(笠原先生)

 また、行政・民間問わず、育児支援サービスは充実してきている。SNSでの情報収集や、子育て中の先生同士で情報交換し、積極的に活用するのも一つの手だ。

笠原 晶子先生

 「子育て期は自由に使える時間が圧倒的に少なくなるため、時間を有効に使うこと、仕事の優先順位の付け方などを意識して、無理なものは潔く諦めることもポイントです」(笠原先生)。多少コストが高くても宅配型のミールキットを利用するなど、時間を買うことも解決策になると微笑む。

 また、急なお休みでほかの先生に自習監督など補欠対応をお願いすることになってしまっても、感謝こそすれ必要以上に引け目を感じる必要はないと言う。「担任以外の先生など第三者の視点から、子供の良さや気になる点を発見してもらうこともありますので、休んだことで全てがマイナスになるわけではないのです」(笠原先生)

 管理職としては、子育て中の先生への配慮も積極的に行っていきたいところ。笠原先生は「管理職時代は、子育て中の先生が働きやすいような声かけを心がけました。当たり前のことですが、校務を効率化し、全員が早く帰れるような仕組みづくりも工夫しました」と振り返る。

ICT活用支援歴は 20年超
外部機関連携に意義を見出す

 そんな笠原先生がセカンドキャリアを決意したのは、退職前のまさにコロナ禍のときだった。笠原先生は「現在前橋市のGIGAスクール運営支援センターに所属していますが、実は退職後のセカンドキャリアは、学校関係の機関への再就職や再任用などを想定していました」と明かす。

 前橋市では、1998年に市内全校へ校内LANをはじめとするICT活用環境の整備をスタートした。当時、インターネットは最先端技術とされ、市教委はボランティア団体「インターネットつなぎ隊」とともに配線工事を実施。笠原先生は同団体に参加しており、それがきっかけで学校でも情報主任を長く担当することになった。現在の仕事についたのも、その頃知り合った人からの誘いによるものだと言う。

 「外部の方と頻繁に仕事をしていたこともあり、学校の外からICT活用を支援することに価値があると実感していたことも、セカンドキャリアの決め手になりました」(笠原先生)

 笠原先生が所属するGIGAスクール運営支援センターは、前橋市総合教育プラザ内の一室に設けられ、学校からの要請により支援員が訪問し、授業や校務のサポート、研修などを実施している。また、電話やオンラインでの相談などにも応じている。

 「教育プラザ内に拠点を設けており、教育研修センターの指導主事とも互いに授業のICT活用法について情報交換をしています。学校にも積極的に訪問して情報収集しています。教育委員会や学校には自分の教員時代の仲間がたくさんいるので、これまでに築いてきた人間関係に助けられています」(笠原先生)

 前橋市の小・中学校では、GIGAスクールは2021年4月から1人1台端末を使った授業が始まった。導入1年目の研修は「Google Classroom の使い方全般」といったオーダーが非常に多かったが、導入2年目の2022年度は先生方の活用も進み、Google Jamboard™ の授業での活用術や道徳でのタブレット活用についてなど、研修内容はより具体的になってきた。

 GIGAスクール運営支援センターでの笠原先生の主な仕事は職員向けの研修の実施だが、そのほかにも、プログラミングに関わる授業のサポートをしたり、問い合わせに電話やメールで回答したり、先生方向けのお役立ち資料をサポートサイトにアップしたりとさまざまだ。年始や年度末にはPCの諸設定のキッティング作業も支援する。

GIGAスクール運営支援センター

 「最近は Google をはじめ、先進的なクラウドサービスの利活用を促す動画がインターネット上にあふれていますが、先生方が実践できるようになるには具体的なイメージが不足していると言えます。学校現場を知る支援員として、研修はハンズオン(演習)形式で行うようにしています」(笠原先生)

 児童・生徒1人1台という今までにない環境では、トラブルなどが起こりやすく先生方も不安が多いだろう。笠原先生は、「失敗を恐れずどんどん活用を進め、私たちのような外部支援機関も遠慮なく活用してほしい」と話す。

 現役時代は学校を背負い大きなプレッシャーを感じていたが、セカンドキャリアでは肩の荷が下り、自分に合った仕事に自由に打ち込めていると話す笠原先生。「テクノロジーの進化に置いていかれないよう、Google の認定者資格の取得や絶えず登場する新たなツールの習得など、知識のアップデートが必要なことは苦労も多いですが、その分、変化を楽しむこともできます」

 人生100年時代において、笠原先生のように在職中から外部機関と一緒に活動することで、思いがけないセカンドキャリアが見えてくることもあるだろう。

管理職経験を生かし、セカンドキャリアで学校現場のICT活用を支援
笠原 晶子先生

元群馬県前橋市立細井小学校 校長
前橋市GIGAスクール運営支援センター
支援員リーダー
笠原 晶子先生

*Google Classroom、Google Jamboard は、Google LLC の商標です。

この記事に関連する記事