公開日:2023/10/2

「ファーストGIGA」から「セカンドGIGA」へ

国策であり、公教育の必須ツール

東北大学大学院 情報科学研究科
東京学芸大学大学院 教育学研究科
堀田 龍也教授

新型コロナウイルス禍の2020年に、猛スピードで全国に整備されたGIGAスクール環境。
あれから3年が経過し、早くも次のステージが見えてきた。
「セカンドGIGA」が始まるのだ。
今後、GIGAはどうなるのか。
先生や教育委員会には、何が求められるのだろうか。

「ファーストGIGA」から「セカンドGIGA」へ

2024年度には5~8%の自治体が
端末の更新期を迎えると言われている

動き出したセカンドGIGA

 GIGAスクール構想で整備された端末、いわゆるGIGA端末が導入され、早い地域では4年目、多くの学校は3年目に入りました。先進校では、GIGA端末を学習の道具として毎日使って授業を改善し、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を、着実に進めています。GIGAスクール構想によって授業がどんどん変わってきている学校もあれば、ようやくこの環境に慣れてきた学校もあるでしょう。皆さんの学校は、どちらでしょうか? そんな中、国ではもう現在のGIGAスクール構想の次のステージ、「セカンドGIGA」に向けて、動き始めています。

 その一つが、GIGA端末の更新です。いち早く端末整備を行った地域では、端末の更新時期が近づいてきています。いつ更新するか、何を整備するかは自治体が決めることですが、2024年度には5~8%の自治体が更新期を迎えると言われています。

 ここで気になるのが、端末の「更新費用」です。GIGAスクール構想(以下、「ファーストGIGA」と言います)で整備された端末やクラウドの費用の3分の2を国が補助してくれたのは、記憶に新しいでしょう。この端末を更新する時、費用負担はどうなるのか。全額自治体が払うとなると、重い負担となります。

 ですので「更新にかかる費用も国が支援してほしい」と、自治体側は要望しています。どの自治体も遅かれ早かれ端末の更新時期を迎えますから、「国がまた支援してくれるのかどうか」が、今、重大な関心事になっています。

 国の財政的支援は、継続される見通しです。その根拠は、2023年6月に閣議決定された、「経済財政運営と改革の基本方針2023」、いわゆる「骨太の方針」に記されています。この骨太の方針には、「国策として推進するGIGAスクール構想」と、頼もしい一文が盛り込まれています。これ、すごいことだと思いませんか? GIGAスクール構想は国を挙げて取り組む国策なのです。国策なのですから、「整備しない・活用しない」などということは、許されません。

 同方針は、「GIGAスクール構想の1人1台端末について、公教育の必須ツールとして、更新を着実に進める」と続きます。GIGA端末がないと、これからの公教育は実施不可能であり、更新についても言及された強いメッセージです。数年後には学習指導要領の改訂を迎えますが、そこでもGIGA端末は必須のツールとなるでしょう。 

 「誰一人取り残されない教育の一層の推進」とも、明記されています。家庭の経済事情によって、端末が買えない・学習で使えないという事態を防ぐためにも、義務教育段階では公的に支援していく。そんな強い決意が読み取れます。

 この骨太の方針は閣議決定された政府の基本方針ですから、文部科学省や総務省はもちろん、財務省にも強い影響力を持ちます。そう考えると、「セカンドGIGA」でも国の財政支援に期待していいと、私は思います。

GIGA端末がないと、これからの公教育は
実施不可能だという強いメッセージ

セカンドGIGAを見据えた文部科学省の動き

リーディングDXスクール事業

 文部科学省も、先に述べた「セカンドGIGA」に向けて、今年から新しい事業をスタートしました。私が委員長を務める「リーディングDXスクール事業」です。

 これは、GIGAスクール構想における好事例を全国に広めるための取り組みです。すべての都道府県および全政令指定都市から、小中学校が指定校に選ばれ、合計215校がGIGAの実践を報告したり、公開学習会を開催したりしていきます。

 GIGA端末をどう使えば良いかは、言葉を尽くして説明するよりも、実際に見てもらうのが一番です。GIGA端末を用いて、「個別最適な学び」と「協働的な学び」をどう充実させているか。その結果、授業がどう変わってきているか。校務のDXにどう役立っているか。指定校の「普段使い」の実践を広く知ってもらうことで、GIGAの活用を全国津々浦々まで広げようと考えています。

 次の学習指導要領の改訂も、2024年には動き出すでしょう。2024年度に文部科学大臣から中央教育審議会に諮問が出され、2026年に中教審が答申を出し、2027年に学習指導要領ができる見込みだと言われています。次期学習指導要領でも、GIGAを始めとするICT活用が大前提となるのは間違いありません。

 その前に、デジタル学習基盤の整備方針をしっかり定めておこうということで、中教審の初等中等教育分科会の下に、2023年度からデジタル学習基盤特別委員会が設置されました。こちらも、私が委員長を拝命しました。同委員会では、デジタル教材や教育データの利活用、情報活用能力の育成など、幅広い分野について検討を行いますが、「セカンドGIGA」で標準的な整備はどうあるべきか。端末やネットワーク環境の内容や調達方法についても、議論していきます。

 「GIGAスクール運営支援センター」の機能も強化される予定です。先日、文部科学省が発表した2024年度の概算要求では、同センターの機能強化に約100億円を要望しています。

 これまで同センターは、ネットワークのトラブル対応やアセスメント、ヘルプデスクなどの役割を担ってきました。これに加え、学校DX支援リーダーの配置や、教師・事務職員・ICT支援員を対象とした研修、セキュリティポリシー改訂の支援、学びのDXに向けたコンサルティングなど、幅広い業務をカバーするようになります。学校現場が抱えているさまざまな「困り感」の解決を支援し、先生方がストレスなく日常的にGIGAを使えるようにする。先生方を助けたいという、国の施策です。

図2 GIGAスクール運営支援センターの機能強化
図2 GIGAスクール運営支援センターの機能強化
(出典:文部科学省「令和5年度概算要求のポイント」)

「個別最適な学び」や「主体的・対話的で深い学び」の実施校では、
子供の自己有用感や幸福感が高い

ファーストGIGAの課題も明らかに

堀田 龍也教授

 「セカンドGIGA」が動き出した一方で、「ファーストGIGA」の課題が、浮き彫りになってきています。今、国が憂慮しているのが、「地域間・学校間の利用格差」です。前述したGIGAスクール運営支援センターの機能強化も、この「格差」を解決するのが、大きな目的です。

 2023年度の「全国学力・学習状況調査」でも、ICT活用の格差が露わになりました。「授業においてICT機器をほぼ毎日活用している」学校は、小中学校とも2022年度より約7ポイント増え、6割を超えました。しかし、週に1、2回以下しか使っていない学校が、まだ1割近くあります(図3上)。端末を持ち帰っている学校も着実に増えていますが、「臨時休業等の非常時のみ持ち帰る」学校が、まだ1割もあります(図3下)。GIGA端末は、新型コロナ禍のような非常時のためだけに整備されたのではありません。子供が毎日の学習で使うために整備されたことを、今一度理解してください。

 そして今回初めて調査されたのが、「個別最適な学び」や「主体的・対話的で深い学び」でICTを活用しているか、です。小学校で約8割、中学校で約7割の学校が、「個別最適な学び」を充実させる手段として、ICTを週1回以上使っています(図4)。また、「主体的・対話的で深い学び」の視点で授業改善を行っている学校ほど、積極的にICTを活用している傾向があることも分かりました(図5上クロス集計)。GIGA端末を、授業改善の道具だと認識して、使ってくれている。これは喜ばしいことです。

 ちなみに、「主体的・対話的で深い学び」の視点で授業改善を行っている学校ほど、学力調査の平均正答率が高くなっています(図5下)。「GIGAで学力が上がるのか」とよく質問されますが、GIGA端末をただ使っているだけでは、正答率は上がりません。GIGA端末を使って、授業を改善してこそ、子供たちの資質・能力は伸びていくのです。その点を、よくご理解ください。

 今回の学力・学習状況調査では、とても興味深いデータも取れました。「個別最適な学び」や「主体的・対話的で深い学び」を実施している学校では、子供たちの自己有用感や幸福感が高くなる傾向が見られたのです。例えば、「課題の解決に向けて自分から取り組んでいる」子供ほど、「自分には良いところがあると思う」と、自己肯定感が高くなっています(図6)。

 PISA(国際学習到達度調査)の調査などで、日本の子供は海外に比べて自己肯定感や幸福感が低いと、長年指摘されています。授業改善を進めれば、子供たちをもっと幸せにできる可能性があると言えるでしょう。

図3 全国学力・学習状況調査:ICT活用頻度 ①ICTの活用状況等
図3 全国学力・学習状況調査:ICT活用頻度 ①ICTの活用状況等
(出典:国立教育政策研究所「令和5年度 全国学力・学習状況調査の結果」)
図4 全国学力・学習状況調査:ICT活用頻度 ②個別最適な学び(個に応じた指導)や主体的・対話的で深い学びにおけるICTの活用状況等
図4 全国学力・学習状況調査:ICT活用頻度 ②個別最適な学び(個に応じた指導)や主体的・対話的で深い学びにおけるICTの活用状況等
(出典:国立教育政策研究所「令和5年度 全国学力・学習状況調査の結果」)
図5 全国学力・学習状況調査:主体的・対話的で深い学びとICT活用の関係
図5 全国学力・学習状況調査:主体的・対話的で深い学びとICT活用の関係
(出典:国立教育政策研究所「令和5年度 全国学力・学習状況調査の結果」)
図6 全国学力・学習状況調査:児童生徒の挑戦心、自己有用感、幸福感等に関する状況
図6 全国学力・学習状況調査:児童生徒の挑戦心、自己有用感、幸福感等に関する状況
(出典:国立教育政策研究所「令和5年度 全国学力・学習状況調査の結果」)

「教師による一斉授業」を「子供主体の学び」へと、
急に変えるのではなく、少しずつシフトしていく

教育委員会や管理職は何をすべきか

 今回のチエルマガジンにも、「セカンドGIGA」前に読んでおきたいさまざまな記事が、掲載されています。文部科学省初等中等教育局学校デジタル化PTリーダーである武藤久慶氏のセミナーレポートでは、なぜ令和の日本型学校教育が必要なのかを、分かりやすく語っていただいています。何を、どの方向へ変えていくべきか。例えば「教師による一斉授業」を、「子供主体の学び」へと、少しずつシフトしていく。ある日急にガラッと変えるのではなく、グラデーションで変わっていく。この記事に掲載されている図は、とても大切な図です。これを見れば、授業をどう変えていくべきかがイメージできるでしょう。

 沖縄市は、リーディングDXの指定校を抱える先進地域の一つです。今回の記事では、教育委員会の頑張りを、つぶさに伝えています。GIGAスクール構想を推進していくために、教育委員会は何をすべきか。参考にしてほしいと思います。

 対して、学校長の手腕にフォーカスしたのが、渋谷区立西原小学校の記事です。先生方は一人ひとり、年齢もICT経験も教育観も違います。そうした先生方を、学校長としていかにまとめ、推進していくか。管理職の方におすすめの記事です。

教育委員会の頑張りと管理職の手腕に注目。
「セカンドGIGA」に向けた取り組み

端末更新に向けて動き始めた自治体の例

教育委員会の頑張りと管理職の手腕に注目。「セカンドGIGA」に向けた取り組み

 「セカンドGIGA」を見据えた自治体の取り組みを紹介した記事も、掲載されています。

 栃木県壬生町では、2年後の端末リプレイスを見据えて、既存のWindows端末にChromeOS™ Flexをインストールして使う検証作業を開始しました。現状のGIGA端末整備では新型コロナ禍の影響もあり急いで整備する必要があったため、全国的に導入する環境を吟味する時間があまりありませんでした。そこで「セカンドGIGA」では、じっくり時間をかけて整備計画を練ろうとしているのです。

 青森県弘前市では、GIGA端末活用には安定した無線ネットワーク環境が欠かせないとの観点から、通信の高速・安定化を実現する製品を導入しました。今後、ネットワーク環境の重要性はますます高まります。教育委員会は、ネットワークを整備するだけでなく、アセスメントを定期的に行って常に端末活用が円滑に行える環境を作ることが求められます。

 こうした姿勢と取り組みは、教育委員会や行政の方々にとって、とても参考となるでしょう。

「教育は楽しい!かっこいい!」ことを伝えたい。
教員志望者減少に一石を投じるイベント

GIGAを学校外から支えてくれる専門家

 続いては、「学校外」からGIGAスクール構想の推進を支える専門家の方々を紹介した記事です。 千葉大学教育学部の八木澤史子先生は、これから教壇に立つ若い学生たちを育てています。今の学生たちは、ICTに慣れていても、自分がGIGA端末を活用した環境で学んだ経験がありません。そこで、なぜGIGA端末を活用した授業が必要なのか、授業でどう使えば良いのかといったことから、そのような授業で求められる学級経営や学習規律なども、学生の心に染みこむように丁寧に指導しています。八木澤先生は、公立小学校でICT教育の最前線に立ってきたベテランです。そうした方が、教員養成に関わってくれるのは、とても頼もしいことです。

 小学校の先生方にICT活用研修などを提供している、合同会社LTS。この会社を立ち上げたのは、昨年度まで公立小学校で校長を務めていた、菅野光明先生です。管理職として積み重ねてきたGIGAスクール構想推進のノウハウを、学校現場に提供してくださっており、先生方からも「実践的で、説得力がある」と好評です。

堀田 龍也教授
GIGAを学校外から支えてくれる専門家

 「教育は楽しい!かっこいい!」ことを伝えたい。そんな思いから、NPO法人・教育の環は、東京学芸大学と連携し「Tokyo Education Show」を開催しました。学校はブラック職場だと批判され、教員志望者が減少している近年の流れに、一石を投じてくれる取り組みだと思います。このイベントには、教育YouTuberの葉一さんも、協力してくれました。今の子供たちは、教育YouTuberの動画を家で見て学習するのが当たり前になってきています。「学校の授業では分からなかったことが、動画を見たら分かった!」といった喜びの声も聞こえてきます。

 こうした学校外の専門家たちと上手に連携しながら、学校でしかできない、先生にしかできない学びを考えていく時代なのだと思います。

JAET認定校が増えている自治体ほど、
GIGA活用が進んでいる傾向が見られる

見聞を広め意識を変えていこう

 2023年の夏には、さまざまな教育イベントやセミナーが開催され、どの会場も賑わっていました。本号でも、EDIX(教育総合展)の模様をレポートしています。 先生方は、もっと外に出ましょう。こうしたイベントにも参加して、他の学校や地域がどんなことをしているか、国はどう動いているか、見聞を広めましょう。狭い世界に閉じこもっていては、時代に取り残され、社会との「格差」はますます広がるばかりです。

 未だに「今まで通り紙中心の授業でいい。だって、今までそうしてきたんだから」と、授業を改善しようとしない先生もいます。今まで通りのやり方では、この激変する社会を生き抜く力を育めません。少子高齢化と人口減少が続くこの日本を、支えてくれる子供たちを育む。そのために国は、GIGAスクール構想を国策として行ったのです。「入試のためには先生がしっかり教え込まなきゃ」と、相変わらず教師主導の授業を続ける先生もいます。しかし、入試もどんどん変わっています。

 先生に教わった知識をただ暗記しているだけでは、もはや良い点は取れません。「問題が起きると困るから」と、子供のチャット利用を禁止したり、YouTube™を見られなくしていたりする地域もあります。今の社会人は、仕事の連絡をチャットで取り合うのが当たり前です。今の中高生は、家でYouTubeの動画を見て勉強するのが常識になっています。文部科学省もYouTubeチャンネルを開設して、先生方に向けたさまざまな動画を配信しているのをご存知ですか?

 「YouTube=遊び」という古い考え方を捨てましょう。先生方が意識を変えない限り、「格差」は解消されるどころか、ますます広がっていきます。先進校の先生方は、GIGA端末活用に慣れるにつれ、授業が変わり、学習観が変わり、教育観や能力観も変わってきています。「みんな、先生が指示した通りにしなさい」という従来の一斉授業では、個別最適な学びにはなりません。子供が自分で学びを調整していく力も育めません。「勝手に友達と話さない。立ち歩かない」という従来の学習規律を墨守していたら、「友達と対話したい。協働的な学びをしたい」という子供の意欲や学習機会を奪ってしまう恐れがあります。

 かといって、学びに関係のないおしゃべりまで許していたら、学習に支障をきたします。だから先進校では、今の時代にふさわしい学級経営や学習規律を検討して運用しています。

見聞を広め意識を変えていこう

 教育委員会や行政は、「セカンドGIGA」の前に、まず「ファーストGIGA」の検証を行わなければなりません。「ファーストGIGA」の活用は進んでいるのか。整備した環境は適切だったか。他の自治体に比べて、進んでいるのか遅れているのか。JAETの「学校情報化認定」は、自分たちの現在地を客観的に測る物差しになります。認定校が増えている自治体ほど、活用が進んでいる傾向があります。

 「セカンドGIGA」は、すぐそこまで迫っています。学習指導要領の改訂も、控えています。まずは先生方自身が変わりましょう。授業を変え、意識を変えましょう。

*ChromeOS、YouTubeは、Google LLC の商標です。

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