独自カリキュラム「やまなしメソッド」で小・中・高・大の校種間連携を深める

情報教育に関する小・中・高の実践発表

―山梨県―
やまなし情報教育推進室

山梨大学教育学部内に創設された情報教育の推進拠点である「やまなし情報教育推進室」は、学校現場の教育DXや情報教育の推進を図り、全国トップレベルの情報教育推進県を目指している。

山梨大学教育学部附属 教育実践総合センターやまなし情報教育推進室

山梨大学教育学部附属
教育実践総合センターやまなし情報教育推進室

〒400-8510
山梨県甲府市武田4-4-37
TEL: 055-220-8325

小中学校の学習活動を 高等学校教員も動画で確認

 2022年度から高等学校では「情報Ⅰ」が必修科目となった。小学校・中学校のGIGAスクール構想による「1人1台端末」とネットワーク環境の整備と併せ、学校現場では子供たちの情報活用能力を伸ばすための系統的な指導体制や計画が求められるようになってきた。

 こうした各ステージの教育ニーズに応えるため、山梨大学教育学部は2023年10月、山梨県の助成を受けて山梨県教育委員会とともに「やまなし情報教育推進室」を創設した。小・中・高・特支のICT活用・情報教育において一貫性のある独自カリキュラム「やまなしメソッド」を開発し、情報教育の研究に携わっている。その成果を学部・教職大学院での教員養成や県内の学校・教員に還元していく方針で、全国トップレベルの情報教育推進県を目指している。

山梨県の情報教育推進における連携体制
山梨県の情報教育推進における連携体制

 山梨大学 教育学部附属教育実践総合センター長 やまなし情報教育推進室長の長谷川千秋教授は、「これまでの学校教育は、小学校・中学校・高等学校がそれぞれ独立して進められてきました。しかし、系統的な学校教育には校種間連携が欠かせません。将来的には大学との連携も視野に当推進室はさまざまな取り組みを進めています」と説明する。

 やまなしメソッドは、小学校・中学校の情報教育の内容を明確化し、高等学校や大学へとどのようにつなげていくかを模索している。そこで、小学校から大学までの校種間連携を深めるため、小学校と中学校部門を三井一希准教授が、高等学校と大学部門を稲垣俊介准教授が主に担当し、切れ目なくカバーできる体制を整えている。

 同推進室の取り組みは主に①現職教員研修、②教員養成(学部・大学院)、③研究推進に分類される。このうち①現職教員研修に関して、ICT活用の指導力向上のための研修・指導を三井先生が、高等学校の情報科目の指導力向上のための研修・指導を稲垣先生が担う。2人は山梨大学では同じ情報科目のクラスを受け持っており、授業内容をすり合わせたり、校種間連携推進イベントを企画したりするなど、日ごろから情報共有に努めている。

 また、小中学校でのICTを活用した授業づくりを推進する研修動画を作成し、同推進室のHPに無料で公開中だ。理論編は大学教員や指導主事が、実践編は学校現場の教員が具体的な事例を交えて解説している。多様化する研修スタイルを考慮し、動画は隙間時間でも視聴できるよう1本当たり15分程度と受講しやすいようにした。「受講者数は2024年5月末時点で個人と学校単位を合わせて646名です。小中学校の学習活動を把握しようと、高等学校の教員からも申し込みがあります」(三井先生)

実習校のWi-Fi利用を 甲府市教育委員会が後押し

 ②教員養成(学部・大学院)の取り組み事例には、附属小中学校への教育学部のICT支援学生の派遣が挙げられる。附属学校園はICT支援員不足を学生ボランティアでカバーでき、学生は自身のスキルアップにつながるとして初年度は12名が名乗りを上げた。

 同推進室は、教育実習の記録や指導・支援をまとめる実習録のデジタル化のサポートにも力を入れている。小中学校の指導教員と実習生が毎日やり取りする実習録は従来手書きだったが、現在はMicrosoft Teamsを活用するようになった。

 長谷川先生は、「セキュリティの観点から、実習生は実習校のWi–Fi接続が制限されていたのですが、2024年度からは利用できるようになりました。この背景には、甲府市教育委員会の協力により、甲府市内の小中学校で利用しているGIGAスクール端末が大学や研究機関向けのSINET(学術情報ネットワーク)を利用したインターネット接続を行えるようになり、実習校から理解を得やすくなったことにあると言えるでしょう」とほほ笑む。

 加えて、同推進室は県内の情報科の教員不足を解消するため、2024年度から3年間、「情報」免許法認定講習を開講する。「多忙を極める現場の先生方が新たに情報科目の免許を取得しやすいよう、山梨大学が実施場所と講師を提供して受講料を補助し、山梨県教育委員会が教員への周知を行います。このように支援サイドも連携を強め、より効果的な施策を打ち出していく予定です」(長谷川先生)

中学校の実践事例
中学校の実践事例
やまなし情報教育推進室のHPでは、附属学校園の38の授業実践事例を掲載している。

メソッドやフォーラムなどで 系統的な情報教育の浸透図る

 同推進室が取り組む③研究推進については、附属学校園におけるICT活用などの教育実践モデルの開発・実施への協力を呼びかけ、リーフレットやHPで定期的に情報発信などを行っている。

 直近では、2024年3月に「第1回やまなし情報教育推進室フォーラム」を開催した。講師を務めたのは、情報教育をリードする工学院大学附属中学校・高等学校の中野由章校長だ。情報教育の最新トレンドの講演や、小学校・中学校・高等学校の実践事例の紹介、各校種の教員を交えたパネルディスカッションなど、どのプログラムも情報教育の系統性を意識させる内容で構成された。

 2023年度まで東京都の都立高等学校で情報科の教員を務めていた稲垣先生は、「義務教育である小中学校はある程度校種間連携がとれている一方で、高等学校は専門性や独立性を維持する文化が根強く、中学校との円滑な接続は難しい現状があります。すべての教科でICTが活用されるようになった今、中学校・高等学校間の溝を埋める役割も、情報教育を振興する当推進室の使命と考えます」と力を込める。

 多様化する教育ニーズに対応した新たな学びを子供たちに届けるため、同推進室はやまなしメソッドを発展させて成果を積み上げ、ゆくゆくは他県にも普及させていくことを見据えている。

フォーラムのパネルディスカッションの様子。
フォーラムのパネルディスカッションの様子。

*Microsoft Teams は、米国Microsoft Corporation の米国及びその他の国における登録商標または商標です。

山梨大学<br> 教育学部附属<br> 教育実践総合センター長<br> やまなし情報教育推進室長博士(文学)<br> 長谷川 千秋 教授

山梨大学
教育学部附属
教育実践総合センター長
やまなし情報教育推進室長博士(文学)
長谷川 千秋 教授

教育学部附属<br> 教育実践総合センター<br> やまなし情報教育推進室<br> 博士(情報科学)<br> 稲垣 俊介 准教授

教育学部附属
教育実践総合センター
やまなし情報教育推進室
博士(情報科学)
稲垣 俊介 准教授

教育学部附属<br> 教育実践総合センター<br> やまなし情報教育推進室<br> 博士(学術)<br> 三井 一希 准教授

教育学部附属
教育実践総合センター
やまなし情報教育推進室
博士(学術)
三井 一希 准教授

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