公開日:2010/9/30

「留学生30万人計画」で、 大学が変わる?!

 世界とのつながりを深めるグローバル戦略の一環として策定された「留学生30万人計画」。
先般、本計画の一端を担う「国際化拠点整備事業(グローバル30)」主催の産学連携フォーラムが盛大に開催されるなど、地道に、かつ積極的に計画が進行している。
海外からの優れた留学生が集い、「大学の国際化」が進み、国際的にも通用する大学に…。期待する声は大きい。

なぜ「30万人」?

 「留学生30万人計画」については、「留学生30万人を受入れるのは、日本を世界に開かれた国にするには欠かせない」—-2008年1月、当時の福田康夫総理が、世界とのつながりを深めるグローバル戦略の一環として、国会の施政方針演説の中で述べたことに端を発し、中央教育審議会の下部組織である留学生特別委員会が検討のうえ答申。2008年7月、文部科学省より『「留学生30万人計画」の骨子の策定について』として公表されたことから始まった。「30万人」は、2020年を目途とすると謳われている。
 以前には、2007年4月の教育再生会議による「100万人計画」、同年5月のアジア・ゲートウェイ戦略会議による「35万人計画」と策定された経緯もあったが、なぜ「30万人」なのか。
 文部科学省では、他国での留学生の受入れ状況や、現在の我が国の受入れ状況などを勘案した結果であると述べている。つまり、国内の高等教育機関に在籍する学生数は、今後300万人をほぼ横ばいで推移するものと仮定し、非英語圏で先進国であるドイツやフランスに匹敵する10%程度の受入れを考慮、また、世界の留学生市場についてのレポートによると、2015年には500万人、2025年には700万人規模と試算されている。現在、世界の留学生における日本の受入れシェアは、5%程度。30万人は、2020年を目途としており、仮に中間にあたる2020年を600万人とすれば、30万人程度の留学生を受入れるということになる、と説明している。

五つの方策とその進捗状況

 ひと口に留学生を受入れるといっても、「日本に留学したい!」と思える「国の魅力」がなければ目を向けてもらえないことであり、その点をどのように策定しているのだろうか。ここで「留学生30万人計画」の骨子に示された五つの方策を掲げ、スタートして1年後の昨年7月に文部科学省より公表された「留学生交流政策と大学のグローバル化等について」を照らしながら、主要な項目の進捗状況を確認してみよう。

【方策1】日本留学への誘い

—-日本留学の動機づけとワンストップサービスの展開—-

 我が国の文化の発信や日本語教育の拡大により、日本ファンを増やして我が国および大学等への関心を呼び起こし、留学希望に結びつける。また、ウェッブなどを通じ、留学希望者に対し各大学等の情報を発信する。海外においては、在外公館や独立行政法人の海外事務所、大学等の海外拠点が連携して日本留学に係る各種情報提供、相談サービスを実施し、留学希望者のためのワンストップサービスの展開を目指す。

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(進捗状況)
■日本語教育拠点「さくらネットワーク」の拡充(40拠点→100拠点)
■日本語能力試験の試験実施回数を一部の国(中国・韓国・台湾・地域44箇所)で1回→2回(12月・7月)に増。
■日本留学紹介DVDやイメージロゴ、ポスター、相談マニュアル等の作成。
■日本留学ポータルサイトの整備など

【方策2】入試・入学・入国の入り口の改善

—-日本留学の円滑化—-

 必要な留学情報の入手から入学許可、宿舎などの決定まで、母国で可能とする体制を整備する。また、入国が円滑にできるよう、留学生の質にも留意しつつ入国審査等を見直す。

(進捗状況)
■日本留学試験の拡充
・試験実施都市の拡大(13カ国16都市→17都市:香港を追加で調整中)
・試験問題の多言語化についての調査研究(現行の日本語、英語の加え、中国語、韓国語を追加)
・「国際化拠点整備事業(グローバル30)」等による大学の拠点等を活用した日本留学試験の実施(検討中)
■在留資格等の制度改正
・在留資格「留学」と「就学」の一本化(法案を提出し、審議中)
・入国・在留審査に関する提出書類の大幅な簡素化、審査期間の大幅な短縮(準備中)

【方策3】大学等のグローバル化の推進

—-魅力ある大学づくり—-

 留学生を引きつける魅力ある大学づくりとして、英語のみによって学位取得が可能となるなど、大学等のグローバル化と大学等の受け入れ体制の整備について支援を重点化して推進する。

(進捗状況)
■「国際化拠点整備事業(グローバル30)」の実施(2009年度新規:41億円)
・2009年度(初年度)13大学の採択(東北大学・筑波大学・東京大学・名古屋大学・京都大学・大阪大学・九州大学・慶應義塾大学・上智大学・明治大学・早稲田大学・同志社大学・立命館大学)
・英語による授業等の実施体制の構築をはじめ、留学生受入れに関する体制の整備、戦略的な国際連場の推進を図る。

 「第1回国際化拠点整備事業(グローバル30)産学連携フォーラム」が、2010年8月2日、経団連会館カンファレンス(東京都千代田区)において、産業界、および大学関係者を中心に370名の参加者のもと、盛大に行われた。
 全体テーマは「社会のグローバル化と国際人材の育成に向けて」。とくに、パネルディスカッションでは、テーマに基づき、具体的な事例をもとに様々な課題を明らかにしつつ、その解決策に向けた産学連携の方向性も追求された。

■奨学金事業の改善による国際化の対応
・留学生交流支援制度の創設(2009年度新規、補正)
・大学間交流の活性化を図るため、世界的に拡大が見込まれる短期留学(3ヶ月以上1年以内)により渡日および派遣する留学生を支援するとともに、学位取得を目的とする日本人留学生の長期留学(1年以上)を支援

【方策4】受入れ環境づくり

—-安心して勉学に専念できる環境への取組み—-

 宿舎確保の取組みなど留学生が安心して勉学に専念できる受入れ環境づくりを推進する。また、地域や企業等が一体となった交流支援を促進する。

(進捗状況)
■大学等が民間アパートを留学生宿舎として借り上げる際の支援(2009年度2300戸)
■留学生宿舎の整備(2009年度補正約600戸・九州大学)
■国費外国人留学生制度(既存事業の拡充、改善)
・受入数の増1万1974人→1万2305人
・月額単価(学部レベル)12万5000円
■私費外国人留学生等学習奨励費(既存事業の拡充、2009年度補正での拡充)
・受入数の増1万2110人→2万4940人
・月額単価(学部レベル)4万8000円

【方策5】卒業・修了後の社会の受入れの推進

—-社会のグローバル化—-

 卒業生が日本社会に定着し、活躍するために大学等はもとより産学官が連携した就職支援や受入れ、在留期間の見直しなど社会全体での受入れを推進する。

(進捗状況)
■留学生の就職支援の充実
・アジア人財資金構想(日本企業に就職意志のある優秀なアジア等の留学生に対し、専門教育や日本語教育から就職支援までの一連の事業を通じ、産業界で活躍する人材育成を促進。産学連携によるコンソーシアムを形成しプログラムを実施。参加留学生は、国費留学生として採用。これまでに382人が採用された。2009年度のコンソーシアム数は、32件)
・外国人留学生のための就職フェア(「外国人留学生就職指導ガイダンス」等)
■就職に係る入国管理の弾力化等の対応
・卒業後の就職活動期間の延長(2009年4月より最大180日から1年に延長)

 2020年を目途とした「留学生30万人計画」は、文部科学省をはじめ、外務省、法務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省の各省や教育機関等が総合的・有機的に連携を図り、前述のように積極的に、かつ一歩一歩、その対応を様々な観点から進めている。
 今後、「日本国の魅力」をアピールして、海外からの優れた留学生が、総学生数の10%を占めるとなると、まさに我が国の高等教育機関の充実が図られるに違いない。

「留学生」のデータを読む…

 一方、独立行政法人日本学生支援機構が、昨年12月に公表した「2009年度外国人留学生在籍調査結果(2009年5月1日現在)」によると、留学生総数は、13万2720人(男6万7723人〈51・0%〉、女6万4997人〈49・0%〉)。前年比8891人増で、過去最高となっている。

 本調査での「留学生」とは、我が国の大学(大学院含む)、短期大学、高等専門学校、専修学校(専門課程)、および我が国の大学に入学するための準備教育課程を設置する教育施設において教育を受ける外国人学生のこと。

 30万人の目標は、2020年としていることから、残り11年で約17万人の受入れをめざすことになる。年平均にすると、1万5455人である。
 昨年5月1日現在のデータが最新であるが、種々の角度から留学生数に関する”数値”を見てみよう。
①留学生数の推移(各年5月1日現在)
 留学生数は、2000年の6万4011人から2005年の12万1812人までの5年間に急激に伸びており、この間の年平均1万1560人がこれまでの最高。
 今後の平均目標1万5000人余をクリアするには、産学官の緻密で長期的な連携、そして有効な施策が求められるところである。

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②在学段階別・国公私立別留学生数
 2009年度の在学段階別の構成比を見ると、大学(学部)が6万4327人→48・5%、大学院が3万5405人→26・7%と、全体の75%を占めている。さらに、国公私立別の構成比を見ると、大学院は国立大学に2万1884人→61・8%、大学(学部)は私立大学に5万3107人→82・6%と顕著な傾向が見られる。
 また、国公私立別の構成比に目を向けると、私立大学の留学生が9万7638人→73・6%と、圧倒的であることがわかる。

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③出身地域別留学生数
 出身地域別留学生の割合は、アジア地域からの留学生が、92・3%と圧倒的に多く、欧州・北米地域からの留学生は、合わせてもわずか4・9%となっている。













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④出身国(地域)別留学生数
 出身国(地域)別に見ると、中国・韓国・台湾の上位3カ国からの留学生で、なんと全留学生の、78・4%を占めている。



















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⑤留学生受入れ数の多い大学
 国内の大学における留学生の受入れ数に目を向けると、大学の規模にもよるが、早稲田大学が3114人(前年比506人増)となり、昨年トップだった立命館アジア太平洋大学2786人(前年比142人増)を越えて、国内で最も留学生を受入れている大学となっている。

グローバルな大学を目指して…


 中央教育審議会・大学分科会が昨年6月に提出した『中長期的な大学教育の在り方に関する第一次報告—-大学教育の構造転換に向けて—-』では、「大学の国際化、すなわち、国の内外から広く優秀な学生、教員・研究者を集わせ、大学の教育・研究機能を高めることは、高度な研究と全人格的な教育を行う大学の内在的要求に応えることである。とくに、多様な文化や背景を持つものがともに学ぶことは、新たな知的発見を通じ、知識技能のみならず、人格的にも大きな成長が期待できる。ややもすれば、内に閉じていると指摘されることがあるわが国においてこそ、大学教育のグローバル化に積極的に取組み、大学教育の構造転換を果たすことが求められる」と述べている。
 ここでは、「留学生30万人計画」、および昨今の「留学生の受入れ状況」を見てきた。入学定員割れが半数もあるなどと”問題”山積の大学事情ではあるが、これからの大学に求められるのは、本計画も関連する「大学教育のグローバル化」であり、前号の『学士課程教育の構築に向けて』でも触れたように、国際的に通用する大学教育の質保証への総合的な取組みをも含めた大学教育の構造転換ではないだろうか。

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