Part 2:ICTが”包丁”なら、ICT活用研修は”料理教室”。教師が研修に何を求めているかを忘れずに。

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富山大学 人間発達科学部
准教授 高橋 純 先生

 2007年9月にスタートし、4年間で27回も開催されてきたフラッシュ型教材セミナー。参加者数はのべ1,900人にものぼり、参加した先生方からも「授業に活かせるアイデアをたくさんもらえた」と好評を博している。このフラッシュ型教材セミナーに毎回登壇し、「フラッシュ型教材 作成・活用 体験演習」も担当する、富山大学 人間発達科学部 准教授の高橋純先生に、セミナーで心がけていること、そしてICT活用研修を成功させる秘訣をうかがった。

ICTは包丁、研修は料理教室と考えると、研修のあるべき姿が見える

 ICT活用の研修やセミナーでは、ICTの機能解説に終始してしまっていることがよくあります。たとえば、電子黒板の機能をひと通り時間をかけて学んだり、学習ソフトウェアの機能を学び、そして「では、今日学んだことを授業で上手に活かしてみてください」としめくくって終わってしまう。これでいいのでしょうか?
 ICTを”包丁”、ICT活用研修を”料理教室”に置き換えて考えてみると、わかりやすいでしょう。参加者は「おいしい料理を作る方法」を学びに来ているのに、包丁で千切りする練習だけで時間が過ぎ、「包丁を上手に使えるようになりましたね。ではその技術を活かして、おいしい料理を作ってください」と終わってしまったら、クレーム殺到でしょう。
 教師が本当に知りたいのは、「授業で上手に活かす」方法そのものなのです。そうである以上、研修も当然授業づくりに直結した内容にすべき。授業づくりの参考になる情報提供や議論をすべきです。
 ICTの使い方を教える必要がないとは言いません。包丁を上手に使えないとおいしい料理は作れないのと同様に、ICTの使い方を知らないと、授業でもうまく使えません。しかし操作方法を教えるにしても、授業での活用に関わる実際的で必要最低限の内容に抑えるべきでしょう。

百聞は一見にしかず。まずは”体験”から始める。

 ICT活用のセミナーや研修では、まず教材や機器の概要や機能を解説した後に、「では、実際をごらんください」と体験に移ることが多いようです。しかし、よく知らないモノの説明をいきなり聞かされてもイメージが湧きませんし、「なんだか難しそう」と、マイナスの印象を植え付けてしまうこともあります。
 フラッシュ型教材活用セミナーでは、まずは先に模擬授業を行ってフラッシュ型教材を”体験”してもらってから、”説明”に入ります。「百聞は一見にしかず」で、実際に見てもらえば「なるほど、こういうものか」とイメージも湧き、教材の良さや魅力も体感できるので、「もっと知りたい」と興味も湧くのです。
 しかも、”体験”は小刻みで、模擬授業は2回に分けて行います。まずは1回目の模擬授業で、子どもの立場でフラッシュ型教材を体験。次に「フラッシュ型教材 作成・活用 体験演習」ワークショップで、先生方に実際にフラッシュ型教材を作ってもらい、グループ内で先生役と子ども役に分かれて”体験”します。すると、全員が声をそろえて答えるには出題内容や発問を工夫しなければならない等、フラッシュ型教材を授業で効果的に使うためのコツや注意点が体感的にわかるのです。その上で、2回目の模擬授業を行いますが、2回目は、1回目よりも内容が授業寄りで濃く、時間も長くなります。セミナー全体が「スモールステップ」のつくりになっているのです。フラッシュ型教材について、少しずつ体験し、理解し、考えを深め、興味をそそり、さらに体験していくスパイラル構造なのです。

あえて”紙”でフラッシュ型教材を作るワークショップのねらいとは?

 フラッシュ型教材セミナーのワークショップでは、敢えてパソコンを使わず、”紙”でフラッシュ型教材を作ってもらいます。それはなぜか? パソコンで作業をすると、ついつい「文字の大きさを変えよう」「色を変えてみよう」「せっかくだからアニメーションにしてみよう」と、いろいろな機能を使おうとしてみたり、見映えに凝ったりしてしまいがち。紙ベースで教材を作成することで、こういった”雑音”を取り除き、授業に直結した大事なポイントに焦点を絞れるのです。
 たとえば、「発問」の大切さに気づきやすくなります。紙でフラッシュ型教材を作り、実際に使ってみることで、「下手な発問では、どう答えていいか迷う」「声がそろわない」「テンポよく即答できない」ことが浮き彫りになるのです。
 ICTが”道具”であることも、このワークショップで実感できます。「ICTは道具だ!」という言葉をよく耳にしますが、現実はICTを使うことが目的化してしまっていることがよくあります。敢えてICTを使わず、紙でフラッシュ型教材を作ることで、「ICTは道具に過ぎない、大事なのは教師の授業力や指導力なのだ」と気づけるのです。
 ですからワークショップのディスカッションでも、自然と授業に直結する本質的な議論になります。こちらから指示したり誘導しなくても、発問をどうすればいいか、どんな出題がいいか、出題の順番はどうするかといった、議論が展開されます。ICT活用を上手に効果的に進めるには、実はICT以外の部分が大事、発問や指導が大事なのだと、体感的に理解できているからでしょう。
 もちろんワークショップでは、フラッシュ型教材の良さやコツも体得できます。「繰り返すことで身につく」「即答できる発問と出題にする」「徐々に難易度を上げていく」といったことを先生方は身をもって学ぶとともに、「これなら私にもできそう!」「こういうICTの使い方なら、今の自分の授業にも役立つ」と実感しているようです。

模擬授業で、教師役と子ども役の両方を体験する効果とは?

 教師は自分の授業を改善するために、授業に活かせるモノを求めて、研修に参加します。ですから研修には、模擬授業や教材を作るワークショップなど、授業に活かせる活動を取り入れるべきです。
 模擬授業もただ見るだけでなく、参加者にも模擬授業をしてもらうのがいいでしょう。フラッシュ型教材セミナーも、そうしています。教師役と子ども役の両方を体験することで、わかることがたくさんあるからです。
 たとえば、「フラッシュ型教材は、繰り返すことが大事です」と話を聞くだけでは、「なるほど」とうなずきはするでしょうが、なぜ大事なのか、どれだけ繰り返せばいいのか等、実感をともなった理解になりません。しかし、模擬授業で子ども役となって実際にフラッシュ型教材を体験すれば、繰り返しの大切さがよくわかります。1回目よりも2回目の方が楽に答えられるし、自信が出てくると大きな声で答えられるようになる。また教師役を体験すれば、同じ問題を4~5回繰り返すと全員の声がそろい、リズムが生まれることがわかる。「繰り返しが大事というのは、こういうことか!」と体で実感できるのです。
 教師役、子ども役、いろいろな立場をたくさん体験することが、研修では大事。その機会として、模擬授業は最適です。模擬授業の所要時間は短くていい。フラッシュ型教材セミナーでも最初の模擬授業は3分前後で、2度目の模擬授業も7~8分程度。授業場面を限定することで、模擬授業の所要時間を短縮できます。たとえば「折れ線グラフ」の単元なら、「折れ線グラフを書く際に、まず点を打つ作業」にまで場面を絞る。ここまで場面を限定すると、模擬授業の所要時間も短くなり、模擬授業を順番に披露し合う時間的余裕が生まれます。
 模擬授業の授業場面を限定すると、その後のディスカッションの課題が明確になり、具体的で現実的な議論を進められるようにもなります。
 たとえばフラッシュ型教材なら、授業で使う際は発問をどうすべきか、どんな出題がいいか、出題の順番はどうするか、何回繰り返せば声が揃うか、といった明確な課題に向かって、参加者は議論します。目的がはっきりしているので、議論が抽象的にならず、具体的で実践的な話し合いになり、短時間でも議論の成果が出るのです。そして議論で得た結論は、すぐに実証が可能。フラッシュ型教材セミナーでも、議論の結果を反映して教材を作り直し、グループ内で模擬授業を行ってすぐ試し、また話し合いをして議論を深めています。気軽で気楽な、そして有益な意見交換ができるのです。

先生方の期待に応えるICT活用研修を!

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 ICT活用研修で大事なのは、機器の使い方講習ではありません。たとえば実物投影機の研修なら、何を映すか、どこを映すか、その際の発問や指示はどうするか。大事なのは、教材であり、指導方法なのです。
 先生方は、教師は「いい授業をしたい」「子どもに学力をつけたい」と願って研修に参加します。その要求を満たす研修を心がけてみましょう。

フラッシュ型教材活用セミナーの大まかな流れ
趣旨説明 → 模擬授業① → 教材作成・活用体験ワークショップ →模擬授業② →
パネルディスカッション → 総括講演

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先生方から大好評の「フラッシュ型教材 作成・活用 体験演習」ワーク
 班ごとに、フラッシュ型教材を作成。まずはテーマを決めて問題を一人一つ考え、出題順や発問も吟味して創り上げていく。ただし使うのは紙とペンだけで、パソコンは一切使わない。作った教材は、互いに披露し合い、意見交換する。
「フラッシュ型教材の利用方法が良くわかった。特に教師の発問が重要だとわかった」「他の学校の先生方と交流しながら、授業に活かせるアイデアをたくさんいただいた」と、参加した先生方からも高い評価を得ている。

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