公開日:2013/11/27
第2回「学習モデルを定めて効果的にICTを活用〜韓国・ハンビット小学校が広島市立藤の木小学校を視察(1)
タブレット対応の授業支援システム『T-CAT(Tablet Computer Assisted Tool)』を2013年7月に導入し、チエルとの共同研究に取り組む韓国のハンビット小学校(京畿道坡州市)が、フューチャースクール実証校である広島市立藤の木小学校との交流を進めている。10月上旬にハンビット小学校からシム・ジョムスン校長をはじめとする視察団が藤の木小学校を訪問し、タブレットPCを活用した協働学習の様子を見学し、意見交換を行った。
すべての先生がICTを使った授業を実践
ハンビット小学校の視察団が訪れた藤の木小学校は、総務省による『フューチャースクール推進事業』と文部科学省の『学びのイノベーション事業』の実証校だ。児童一人1台のタブレットパソコン(TPC)や各教室1台のインタラクティブ・ホワイト・ボード(IWB)などのICT機器を用いた授業を実践し、「協働学習」の効果等について検証している。小学校の実証校は全国に10校あり、2010年度から3年間の実証研究に取り組んできた。
「ようこそ藤の木小学校へ」と英語で書かれた玄関掲示に迎えられた視察団はまず、島本圭子教頭より、藤の木小学校の特色について説明を受けた。「心たくましく 学びたしかに」を校訓に掲げる同校は、1990年に広島市立河内小学校より分離開校し、今年で創立24年目を迎える。児童数は228名、全校で10学級という小規模な小学校だ。校内には全校児童が守るべき「スタンダード」が掲示され、子どもたちは学習面や生活面、健康面のそれぞれの目標を常に意識して、規律正しく学校生活を送っている。そうした様子を島本教頭が動画で紹介すると、視察団の先生方は感心しながら映像に見入っていた。
続いて、ICT環境についての紹介があった。TPCは一人1台支給され、子どもたちは日常的に、デジタル教科書や資料集、先生の自作教材を使って授業を受けている。調べ学習に使ったり、気づいたことをタッチペンを使って書き込んだりすることもある。教室にはIWBのほか実物投影機も設置され、従来の黒板も併用している。このような環境下で、日常的にICTが活用されていることが伝えられると、視察に同行し、共同研究のコーディネーターを務める玉川大学教職大学院・堀田龍也教授が、「藤の木小学校では、新任の先生からベテランの先生まで全員がICTを活用した授業に取り組んでいます。情報機器の操作が得意な特定の先生だけが取り組むのではないというところが重要です。実証校として、すべての先生がすべての普通教室でできるICT活用の研究を進めています」と、研究の意義を説明した。
学年や教科に応じたさまざまな活用法を見学
その後、視察団は各学年の教室を訪れ、授業の様子を見学した。実物投影機とIWBで漢字を映し出し、筆順や形を確認する1年生の国語、TPCとタッチペンを使って各自が筆算の仕方を考えて計算し、その解答をIWBに表示する2年生の算数、TPCで資料を読み取り、意見を発表し合う3年生の社会、音楽教室でIWBに楽譜を映し、教員のパソコンからメロディーを流す4年生の音楽、そして三角形の拡大図の描き方を学ぶ6年生は、各自のTPCに表示された図形を見ながら、コンパスを使ってノートに図形を描いていた。
学年や教科に応じてTPCの活用方法はさまざまだ。低学年はタッチパネルのように使い、学年が上がるにつれて、資料を読む、動画を見る、意見を書くなどの操作を活動内容に合わせて取り入れていた。ICT機器はどの授業でも、全体の流れのなかに自然に溶け込んでおり、子どもたちも操作に戸惑うことなく使いこなし、授業に集中している様子が見て取れた。
どの教室を訪れても、同じように体系化された授業が展開されていたことに、視察団は驚いていた。授業は一斉授業と個別学習、協働学習とが内容に応じて振り分けられ、ICTはその中で効果的に活用される。子どもたちが考えたことを書いたり、伝えたりする機会の多い”児童主導型”の授業を展開するため、黒板の上には「言語活動の充実—-つながる発言レベル」と題した掲示があり、「レベル1 伝える」「レベル2 受け止める」「レベル3 深める」「レベル4 広げる」という段階を追った発言のルールがある。一人の発言に対して、周りの子どもたちが同意したり、補足したりするための表現が示されているのだ。
島本教頭は「協働学習を進めるうえでは、児童一人ひとりが自分の考えを持つことが不可欠です。そのためにどのようにTPCを活用するかを意識して、教員は授業を組み立てています」と話す。授業の冒頭では必ず、その時間のめあてが黒板に示される。まず、個別学習で一人ひとりが考える時間を確保し、考えたことをTPCなどに書き表す。その後、ペアワークやグループワークを取り入れ、自分の意見を伝え、友達の意見を聞き、考えを深めていく。その後、友達との学び合いを通じてわかったことを各自がまとめ、発表する。最後に、自分が何をがんばったのかを振り返り評価をして授業を終える。
3年間の実証研究を通じて、藤の木小学校ではこうした「協働学習モデル」が確立しており、今年度はさらに「個の学びが拓き深まる学習モデル」へと発展させて実施している。
次回は、引き続き藤の木小学校訪問の様子をさらにお伝えします。1月9日[木]の掲載予定です