関西外国語大学とアクティブラーニング

学習意欲を高め、自律的学習力を育むアクティブラーニング

今、大学教育で「アクティブラーニング」が注目を集めている。学生自ら課題を設定し、解決していく能動的な学びを通じて、未知の問題に挑戦し、探究しながら新しい価値を生み出していく力を養う学びだ。関西外国語大学の松宮新吾教授に、アクティブラーニングを取り入れた語学教育とその効果について伺った。

教員の非定型的な発問により学生の頭の中を活性化する

 「アクティブラーニングは語学や教職課程の授業で、成果を出しています」。開口一番、松宮新吾教授はそう述べた。アクティブラーニングを取り入れた授業は出席率が99%、記述式の小テストの正答率も15ポイント以上上昇したという。

 学生の自律的学習力を育成する学びを提供するため、授業ではペアワークやグループワーク、ディスカッションなどによるプロジェクト型学習を取り入れ、学生自ら課題を設定し、解決する。そうした学びにより、学生の”頭の中が活性化”していく。だが、それには教員の発問が重要だという。

 「教員が教え、知識を習得し、理解する授業での教員の問いかけは、記憶することを促したり、知識を呼び起こしたりする定型的な問いでしかありません。答えのない問題に対して、未知の知識を獲得し、新しい価値を生み出していく力が求められる現代においては、学生に”ゆさぶり”をかけ”のめり込ませる”ことができる非定型的な問いかけをする必要があるのです」と説明する。

 だからこそ、教員は「問題の本質は何か」「根拠は何か」と踏み込んで問いかける必要があり、「あなたはどう思うのか」「なぜそう思うのか」と学生の考えを引き出す問いかけをしなければなりません。

 「教員の発問は学びの道しるべとなり、授業を変える手段となる」と松宮教授が語るように、発問の質を変えることで、学生の気づきが促され、思考が深まり、頭の中が活性化する。そうした状態こそがアクティブであり、学習意欲を向上させるのだ。

「わかる」から「できる」へ

 アクティブラーニングを展開する際、教員に求められるのは「授業のデザイン力」だ。どんな力を育成したいのか、そのゴールを明確にすることで、必要な指導内容が明確になる。設定した能力指標に基づいて、「わかる」から「できる」へと転換するのだ。松宮教授によれば、その転換には3つの階層があるという。

 第1の階層では、物事を表面的に知っている「わかる」であり、英語の"I know."や"I see."にあたる表現だ。それを「できる」に高めるには、すでに学んだ場面で物事の処理ができなければならない。第2の階層の「わかる」は、物事の本来の意味や真意を理解している状態だ。英語では"I understand."で表現される。この階層での「できる」は、既知の場面と類比な場面で物事の処理ができなければならない。そして、第3の階層の「わかる」は、物事の本当の値打ちや真価を認めている、つまり"I appreciate."という状態だ。その状態の「できる」は、発展的な場面で、物事の処理ができることを意味する。このように、階層が上がるにつれて、できることの到達点はさらに高まっていく。そして、学生自身が学びを通じて、この状態を実感できるようにするのだ。

 このような授業づくりにおいて、教員には「わかる(理解)」中心の受動的な授業から、学生が未知の経験に対して独自の考えを生み出せる「創造的探求型」の授業へ転換する力が求められる。授業では、学生が自己決定していく活動を取り入れ、学んだことを図や絵で示し、多様な能力を活かせるような仕組みもつくる必要がある。

開智・考究型の学びこそがアクティブラーニング

 「ネイティブスピーカーの英語を絶対視するという呪縛にかかっていませんか。英語スピーチコンテストは好例です。生徒は英文を書いて暗唱して内容を披露しますが、実際にその内容についての意味交渉ができる力がついているでしょうか。単なる模倣上手な生徒を育ててはいませんか。英語学習において基礎・基本の習得は不可欠ですが、その後の目標設定がなされていますか。教員は本来、授業を通じて生徒が自律的に学ぶ姿勢を身につけ、学んだことを活かして応用したり分析したりするといった、高い次元の学びを提供すべきなのです」と、松宮教授は述べる。

 そして、授業は基礎力を培う「Basic Learning(基礎学習)」と、自由な創造力を高める「Higher-order Learning(高次元学習)」を同時に進めていくべきであると強調する。90分間の大学の授業であれば、80分間は「Basic Learning」であっても、最低10分間は「Higher-order Learning」を取り入れ、学生に学びの面白さを気づかせる機会を与えてほしいという。「Basic Learning」における教員のスタンスは「Teach(教授)」であり、「Higher-order Learning」においては「Educate(開智)」である。一方で学生のスタンスは「Basic Learning」においては「Learn(学習)」であり、「Higher-order Learning」においては「Study(考究)」となる。つまり、既成概念の枠内でとどまらず、答えのない問いについて掘り下げて考え、独創的に考え、発見する「開智・考究型」の学びに取り組むうちに、社会で必要な「生成的知識力」が育成されていく。

学びたい意欲に訴える授業ができて初めて成立する

 松宮教授は「アクティブラーニングは一過性の流行ではない。その根幹には、教員の哲学や信念が流れているべき」だと主張する。どんな学生を育て、どんな力をつけたいのか。その思いを実現するために、アクティブラーニングの概念を取り入れるのだ。そして、学生同士が協働学習を通じて学び合い、高め合い、共感することが大切だと考える。そうして学生たちは、得た知識を有機的につなぎ、新しい価値を創造する力を身につけていく。

 最近は「反転学習」への関心も高まっている。新たな学習内容について、自宅で動画授業を視聴して予習し、授業では予習によって得た知識を応用して問題を解いたり、協働でプロジェクトに取り組んだりする。

 松宮教授によれば、反転学習やアクティブラーニングは新しい学習スタイルとして注目されているが、実は20世紀当初の教育思想にまでさかのぼることができるものだ。教員が中心ではなく、学びの主体である学生が中心の学びであり、授業は学生が”ワクワクする場”でなければならない。そして、その場に参加するためにも家庭学習での予習や復習が不可欠になる。「だからこそ、教員は学生に予習・復習をさせる仕組みをデザインしなければなりません」と松宮教授。さらに、「学びたい意欲、つまり本能的な部分に訴える授業ができない限りは、アクティブラーニングは成立しないのです」と強調した。

学生が主体の学びに参加し他者を認め、自信をつける

 現在、関西外国語大学の英語キャリア学部では、国際社会で必要な「高度な英語コミュニケーション力」とともに、異文化・多言語圏の人々の意見を集約することができるネゴシエーション力の育成を目指し、英語の授業や教職課程の授業で『ABLish』を活用して、アクティブラーニングを実践している。

 松宮教授の授業は、学生が自宅で書いてきたエッセイについて、グループ内で議論し、全体に発表して内容を深めていく場だ。エッセイを書くためには文献やインターネットなどで調べた情報をはじめ、必ずABLish上のディスカッションに参加し、他者の視点を取り入れることが求められる。1クラス20人。5人ずつのグループで学び合う。ひとりの学生が発表すると、他の学生が質問し、意見を述べ、議論を重ねる。その際には、タブレット端末を使って意見をまとめ、図表化してグループ発表の内容を作り上げていく。

 「授業に参加しているという意識が強く、学生は、教室の中で自分の存在を他者が認め、成果を評価してくれるという経験を得て、自信をつけています。授業への出席率が高く、発言も多く、学生が主体の学びを展開しています。アクティブラーニングを取り入れることで、学生自らが授業に関わっている自覚が芽生えるのです」とアクティブラーニングの効果を説明した。

関西外国語大学 英語キャリア学部 松宮 新吾 教授
「アカデミックリーディング」「ゼミナール」「英語科教育法」の授業を担当。

膨大な知のネットワークの中で新たな価値を創造する

 1・2年生の『アカデミックリーディング』の授業では『ABLish』が活用され、豊富な配信教材と、文書・Webページ・動画サイトなどの様々な教材をもとに、ディスカッション、グループワーク、協働学習、課題解決型の学びを支援している。週3回配信される時事英語のニュース教材を使い、ニュースの内容を読み解き、ナレーションを聞いて英語で理解し、さらに理解したことをベースに自分の言葉で表現する。ニュース本文は2種類の難易度の文章で表現され、クイズで理解度をチェックする。トピックごとに「ディスカッション」が設けられ、学生は自分の意見やコメント、またリサーチした事柄を自由に書き込むことができる。

 こうして学びながら、学生は「読む・聞く・話す・書く」の4技能を統合的に使って、膨大な知のネットワークを形成し、新たな発見や価値を創造する。

 松宮教授は「『ABLish』は受動的な学生を、学びと教育創造の主体者に変容させることができます。学生相互の学び合いを通じて、生成的な知識力を育成するアクティブラーニングの環境を構築することができるのです」と述べる。

『ABLish』での学びで意欲が高まる

 関西外国語大学で『ABLish』を導入してから半年が経過した。今年4月から7月にかけて利用した学生にアンケート調査を行ったところ、「満足している」という学生が大半を占め、「他の人にも薦めたい」「継続して利用したい」の問いにも、肯定的な回答がほとんどだった。利用場所については、圧倒的に自宅でのPC利用が多く、反転学習が進んでいることも伺えた。

 「取り扱っている題材」については「難しい」が多いながらも、「興味深い」が支配的で、「学生の興味関心のあるコンテンツが多数提供されていることが『ABLish』に対する高い評価につながっている」と松宮教授は分析する。

 授業の効果についての問いに対して、「思考力の育成に役立つ」ととらえている学生は多く、学習内容の理解はもちろん、思考力、判断力、表現力、プレゼンテーション力などが身につくと実感していることがわかった。

短期間でも効果を実感できる

 『ABLish』を活用した「開智・考究型」の授業を受けた学生の英語力の伸長度を、TOEFL®テストの受験結果でも確認することができる。4月と7月の2回の受験結果から、1年生のあるクラスでは4月の平均スコアが450点だったのに対し、7月には488点と大幅に上昇した。特別な試験対策はしておらず、『ABLish』を取り入れた授業により、総合的な英語力が伸びたのだ。

 「わずか3か月の短期間でも、確実に効果が出ている」と松宮教授は言い切り、「学生も結果に表れると、アクティブラーニングの効果を実感し、思考力や判断力の向上に役立つととらえ、学習意欲を高めています」と述べた。

 20世紀の伝統的なロードマップ型の学び方から、21世紀型のゴールイメージ型の学びへの変革が求められている。それは指示通りに道をたどるのではなく、道なき道を手探りで歩きながら、他者が示したゴールではなく、自らがゴールそのものを描きながら進んでいく学びだ。アクティブラーニングは、学生が主体となって学びながら思考力や判断力を高め、新しい価値を生み出す力を育成する手だてとなる。

アクティブラーニング型学修を支援

『ABLish』は、インタラクティブなデジタル教材と多彩な学修ツールで、深い学びを実現するアクティブラーニング型学修支援システム。週3回時事英語ニュース素材が配信され、授業で利用する教材をワンクリックで登録することができ、教材をグループで共有して課題に取り組むことができます。

アクティブラーニングの魅力を語る松宮教授のインタビュー映像を
YouTubeでご覧いただけます。

松宮教授のインタビュはこちらから

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