CALL教室が支える外国語学習でのアクティブラーニング

― 慶應義塾大学 ―

文部科学省の「高大接続改革」において、大学教育でのアクティブラーニングの充実が求められている。学生が能動的に学び、問題発見・解決能力を高め、思考の活性化を促す協働学習が重要視されているのだ。慶應義塾大学が1999年から導入し、現在6教室で運用している日吉校舎のCALL教室を活用した外国語学習におけるアクティブラーニングの手法は、これからアクティブラーニングの導入を検討している大学にとって、貴重な参考事例となるだろう。

動画を活用して4技能を高める

学生たちが学習している間、吉原先生は教室内を巡回し、一人ひとりの進捗を確認しながら、個別に対応する。

 理工学部の1〜3年生が受講する『英語リスニング3』の授業。4人ずつが向き合って着席する島型配置のCALL教室で、吉原学先生が授業を行う。ノートパソコンを開き、『CaLabo EX』で出席票を提出した学生たちは、吉原先生が指示した動画ファイルと配布されたWordファイルを受け取り、個別に学習を始めた。

 まずはCNNで放映された米国のオバマ大統領の演説を数本視聴し、「銃規制とテロ」について、大統領の主張や心の動きを捉える。Wordファイルには演説の文章と聞き取る箇所が記されており、学生たちは演説を注意深く聞きながら、適切な語句を書き取ったり、設問に答えたりする。全て回答すると、Wordファイルの末尾に正解が表示され、学生たちは個々に自分の回答した内容との正誤を確かめていた。

 次に、「会話機能」を使って、席の離れた学生同士のペアをランダムに組み、チャンクリーディングによる読解に取り組む。ヘッドセットを装着し、「よろしくお願いします」と挨拶し合った学生たちは、どこで区切って読めばよいのかをペアで話し合いながら決めていく。吉原先生によれば、「英語の文章は左から右へと流れていくことを意識させ、戻し読みや逐語訳をせずに、早く的確に意味を取れるようにすること」を目標としているという。10〜15分の制限時間内で決められた英文を読み、内容を理解すると、クラス全体での発表へと移った。

 スクリーンには、先生が作成したWordファイルが、時には指名された学生のWordファイルが表示される。どこで区切って読むのかを発表させながら、答え合わせをする。その際、吉原先生は重要な語彙を緑色で、重要構文や文法を赤色で表示させ、理系の学生が学会発表などで使うことの多い語句なども交えて解説した。「視覚的に印象付けることで、語彙や文法事項を定着させる」ことをねらいとしている。

 その後は、『ムービーテレコ』を使った音読練習に入るが、吉原先生は「CNNのアンカーのように読む」ことを意識して読むようにと指示を出した。強弱や緩急、抑揚を付けて読むことで、学生の発話力を高めている。学会発表などの際に、自分の言葉で語りかけ、説明できるようになることを目指しているのだという。練習を繰り返し、アンカーのように読めるようになった学生から、「録音機能」を使って、音読内容を録音し、保存しておく。保存した音声は、学期の間に抜き打ちで回収され、評価の対象となるとあって、学生も真剣に取り組んでいた。

実は「5年前まで授業はアナログだった」と言う吉原先生。

学生主体の活動で成立する授業

ICTありきではなくICTをどう活用してよりよい授業をつくるかが大切なことだと言う。

 この日の授業は音読の録音までで終了したが、翌週にはこの日に扱った題材のうち、一部を和訳しておき、その箇所を学生に英語で復元させる、というライティングの活動も取り入れることが予定されている。センテンスレベルでのライティングから取り組み、書く力も高めていく。

 題材に海外のニュースを扱うことについて、吉原先生は「日本では報じられていない、海外のニュースがあることに気づいてほしいと思っています。また、理系の学生であっても、学会や海外に出たら、専門分野について話せるだけではなく、small talkができる力も必要です。社会人として知っておくべきグローバルイシューに学生のうちから触れておくことで、コミュニケーション能力も高めてほしいと考えています」と述べた。

 授業は学生主体の活動中心で進み、吉原先生が講義をする時間は少ない。「学生が英語の4技能を使って活動する時間を多く持たなければ、英語力は伸びません。私が話す時間は授業中の3割程度までに抑えるよう心掛けています。また、活動も短い時間で区切って、次々と切り替えることも大事で、学生が集中して学べる最適な時間を考えて指示を出しています」

 そして、授業を行うにあたっては、島型配置の教室が語学学習には向いていると言い、ノートパソコンと可動式の机であることにより、学生同士の話し合いが盛んになると実感している。「講義形式の教室では、一方通行の授業になりがちで、コミュニケーションによって成り立つ語学の授業には向きません。学生同士が顔を向き合わせて授業を受け、教室内に失敗しても許される空気をつくることで、学生たちは積極的に英語を使おうとする意識が高まり、自信をつけています。また、教壇がなく、フラットであることも幸いして、教員と学生の距離も縮まり、教員が教室内を巡回することで、学生も分からないことがあっても、質問がしやすいようです」と話した。

 吉原先生は、CALL教室で『CaLabo EX』を使って授業を行うようになってから、その便利さから「学生主体の授業を進めるうえで、ICTは語学学習の大切なパートナー。音声ファイルの配布・回収・提出といった一連の流れがスムーズな『CaLabo EX』がない授業は、今では考えられない」とまで語る。特に、リーディングやリスニングの授業では、海外ニュースの映像や音声が生きた英語の教材として不可欠であり、『CaLabo EX』が学習に効果を発揮しているという。

 吉原先生は「CALL教室は今の時代にふさわしい学習空間であり、学生たちにもICTを活用した語学学習が向いている」と感じている。学生たちはパソコンを使った授業にもすぐになじみ、対面でのコミュニケーションよりも、マイクを通したコミュニケーションの方が抵抗なくできているそうだ。

 自身の経験を通じて「マイクを通したコミュニケーションに慣れたら、徐々に対面でのコミュニケーションにも慣れていき、クラス全体に向けた発表ができるように発展していけばよいのではないでしょうか。ICTありきの授業ではなく、ICTはあくまでツール。上手に活用することで、より良い授業をつくることができると思います。ICTを活用すれば、授業は〝楽〟になります。準備に時間と労力を注ぐことを惜しまなければ、授業中は基本的に学生が主体となって活動し、教員は個別対応をすることができ、学習効果が上がります。ぜひ、一人でも多くの先生にICTの活用を勧めたいですね」と、読者へのメッセージを話された。

コンピューターは外国語学習を助ける存在

「言語学習を通じて異文化を知ってほしい」と言う境教授。

 慶應義塾大学におけるCALL教室の設計から携わってきたという境一三教授は、外国語教育におけるICTの活用に大きな関心を寄せる。1997年に慶應義塾大学に着任後、語学視聴覚研究室(当時)の主事として、LL教室の老朽化に伴うリプレイスを検討し、使用されていないスタジオ教室の改修に取り組んだ。その際、国内外の高校や大学などのCALL教室を20校ほど見て回り、より良いCALL教室のあり方について研究し、99年に日吉校舎に最初のCALL教室を導入した。こうして、4人で卓を囲んで作業できる「島型」のCALL教室がつくられた。島型配置を取り入れる際にこだわったのは、パソコンをデスクトップ型ではなくラップトップ型にすること。机を可動式とすることだった。そして、CALL教室の拡充とともに、従来導入されていた他社製品から、チエルのCALLシステムへ切り替えた。

 「CALLとは、Computer Assisted Language Learningですから、コンピューターはあくまで外国語教育を助けてくれる存在でなければなりません。コンピューターが主ではありませんし、コンピューターが授業の邪魔をするようであってはならないのです。チエルの製品は、まさに授業づくりを助けてくれる存在であると感じました」と境教授は、導入当時を振り返る。

 その後、徐々に教室数を増やしていき、CALL教室活用のためのワークショップをチエルとともに学内で開催して、外国語学習におけるCALL教室の有効性について周知し、稼働率を高めていった。

Learning by Doingが授業づくりの基本

 近年は、iPadを活用したドイツ語の授業を展開しているという境教授。取材で訪れた経済学部2年生の授業では、学生たちがグループごとに慶應義塾大学の魅力をドイツ語で外国の学生に紹介する動画の制作に取り組んでいた。学生各自がドイツ語でシナリオを書き、境教授は一人ひとり順番に回って、内容を確認する。翻訳エンジンや電子辞書による翻訳をつなげただけの文章になっていないか。学生が表現したい内容を伝えるには、どのような表現を用いるのがよいのか。境教授は学生との対話を大切にしながら添削指導する。一通り確認や修正が終わると、学生たちは別の静かな教室へ移動し、書き上げたシナリオを音読し、iPadの録音機能を使って、音声を録音する。その後、すでに学内で撮影したさまざまなスポットの写真と、自身が吹き込んだ音声を合わせて「Adobe Voice」のアプリを使って、動画編集作業に入る。

 仕上がった作品は、クローズドな環境に設定したYouTubeにアップロードし、学生全員で共有するという。そして、お互いに作品を視聴し、コメントを書き合い、評価をする。コメントを書く際には、必ず「一番良いところ」と「改善できるところ」を書くようにし、建設的に評価し合うことを大切にしている。ともに学ぶ仲間同士でコメントをし合うことにより、学生たちはモチベーションを高めていくという。

 このような「動画制作」を授業で取り入れている理由を尋ねると、境教授は「外国語学習においては、〝Learning by Doing〟という考え方に基づき、言語だけを学ぶのではなく、アクティビティーやタスクを通じて、言語を使いながら学ぶことが重要だと考えているからです」と説明した。Doingの具体的な形が動画作りであり、ドイツ語でシナリオを書いたり、ナレーターのように読んだりする活動が、ドイツ語の習得に役立つのだという。そして、こうした学びを支えるのが、CALL教室という学習環境である。

 「教室は学びの場でありながら、学んだことをすぐに実践する場であるべき」と話す境教授。外国語教育において、教室は世界に開かれた場であるべきで、それには、インターネットにすぐにアクセスできる必要があり、教室に居ながらにして、世界とつながれる環境を用意することが大切だという。「これまでの外国語学習は、学んだ内容をいつ使うのかも分からず、ただテストのためだけに学ぶということが多かったと思います。それでは使える言語は身につきません。いつか社会で使う日のためにと言われても、日本にいる限り、ドイツ語を使う場面など、実際にはなかなかないでしょう。だからこそ、学生が教室で言語を使える環境を用意すべきなのです。そうした環境を用意するのが教員であり、学生が言語を使うようにファシリテートしていく役割が求められています。そして、学生が言語学習を通じて、その言語が話される国の文化や社会を理解し、ものの見方・考え方を身につけ、生涯にわたって学び続ける自律的学習者としての力をつけていくことが必要なのです」と述べた。

どうしたらよりドイツ語らしい表現になるのかなど、学生との対話を通じて添削指導する。

一人でも多くの教員に活用してほしい

慶應義塾大学のCALL教室は、外国語教育研究センターが管理し、各言語担当の教員の要望に応じた教室の割り振りを行っている。同センター主務の加藤祐一氏に、CALL教室の稼働状況と今後の展望について伺った。

外国語教育研究センター主務
加藤 祐一氏

 現在、当センターは日吉キャンパスで六つのCALL 教室を運用しています。英語、独語、仏語をはじめとした外国語科目を中心に、2015年度は週96コマの授業で使用されました。これは稼働率で言えば57%(週あたり最大168コマ)に相当します。ここ数年は毎年8〜10コマずつ利用数が増加しており、2016年度は週112コマ(稼働率67%)の利用が予定されています。

 CALL教室の利用にあたっては、初めて使う教員向けの初心者講習と、すでに利用している教員向けのワークショップを年2回、同じ日に開催しています。ワークショップは自身の活用法の発表やアイディア共有の場となっており、質問や要望に対してチエルの担当者にお答えいただく機会も用意しています。

 現状の課題は数百台におよぶPCのメンテナンスです。安定した運用には一般的に5年とされる耐用年数に応じたPCの更新が必要であり、予算の確保は長期的に検討を続けています。チエルや東通産業の方々の手厚いサポートのおかげで、現在、運用上のトラブルは少なく安定して稼動しています。利用者の意見を取り入れながら今後も有効活用の道を探していきたいと考えています。

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