公開日:2018/1/9
新学習指導要領が求める学校像・教師像とは?
2020年に向けた教員の養成
2017年6月にNPO法人全国初等教育研究会(JEES)主催の「第5回JEES教育シンポジウム」が開催された。テーマは「教師力をつけよう、若手教師たち!」。その基調講演として、中央教育審議会委員としても活躍されている、白梅学園大学大学院の無藤隆特任教授が登壇した。講演内容をお伝えする。
学校と教員のミッションの再定義が必要
学校は、家庭や地域社会などと役割を分担していくべきであり、その中で学校は何をすべきか。教師は何をすべきか。学校が子供たちのすべてを引き受けるべきというのは行き過ぎた考えであり、これを改めようというのが、新学習指導要領のポイントでもあります。学校という空間、学校での有限な時間、そして教員というリソースをどう使うか、何を優先させるかを考えなくてはなりません。学校に対する社会的要請も、それに伴う負担もとても大きいですが、学校のミッションを再定義する必要があるのです。
教科の枠を越える「資質・能力」を培う
そもそも新学習指導要領では、社会に開かれた教育課程として、「未来軸」「主体軸」「社会軸」という3つの軸を設定しています。まず「未来軸」は、未知のことがたくさん起こる将来に向けて、学校教育がどこを受け持つかということです。次に「主体軸」は、子供たちが人生を切り拓いていく際に必要な「資質・能力」とは何かを教育課程において明確化し、育んでいくということ。最後の「社会軸」は、地域社会と連携しながら目指す教育を実現させるということです。
この中で、「主体軸」における「資質・能力」は、さらに「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」、そして「学びに向かう力・人間性等」という3つの柱に分かれます。
「知識・技能」は、個別の事実だけではなく、相互に関連づけられた知識や技能であることが望ましいと言えます。たとえば歴史の勉強なら、年号と出来事の名称をセットで覚えて終わりではなく、その出来事の背景にある要因や、その出来事の意義、その後に与えた影響などをきちんと関連づけて知識化していくことが肝心です。いわば、知識と知識をつなげることによる「知識の構造化」が求められるのです。
「思考力・判断力・表現力等」は、将来の予測が困難な社会の中で、未来を切り拓いていくために必要な力です。既存の知見で解決できる課題を見つけて解決するだけではなく、未知の課題を見つけたり、未到達の目標を設定して解決したりする力です。問題を解決するための仮説を立て、計画を練り、実行し、振り返りの後に次の問題解決に活かしていく力です。このプロセスにおいては、自分の考えを表現し、他者の考えにも触れながら、集団としての考えを形成していく作業が不可欠となります。
「学びに向かう力・人間性等」とは、子供たちの意思であり、エンジンとなる部分。自らの思考過程や感情、行動を客観的に捉え、統制する能力です。それと同時に、「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力等」という2つの資質・能力をいかなる方向性で発揮させるかを決定するために、重要な要素となる力と言えるでしょう。
こうした「資質・能力」は広義には「学力」であり、各教科の特質に応じた「見方・考え方」を通して養われます。さらには、教科の枠を越え、将来にわたって社会で生かされる力となるのです。
「主体的・対話的で深い学び」つまり、アクティブ・ラーニング
新学習指導要領において、「主体的・対話的で深い学び」と表現されたのが、いわゆる「アクティブ・ラーニング」です。これについては、「主体的な学び」と「対話的な学び」、そして「深い学び」に分解して考えることができます。
「主体的な学び」は、子供自身が興味を持って積極的に取り組み、学習活動を自ら振り返り、また見通しを立てて意味づけをする中で、自らにとっての学ぶことの意義を理解していくための学びです。「対話的な学び」は、物事を多面的に、かつ深く理解するために、子供が自らの考えを多様に表現し、子供同士、教職員から地域住民や読書など、様々な相手との対話を通じて思考力を広げ、深めていく学びです。
「深い学び」とは、「習得・活用・探究」という学習プロセスのサイクルを回していく中で、中核となる概念に迫り、教科等の「見方・考え方」の理解へと進んでいく学びです。習得した知識を、問題解決やさらなる探究活動に活用することが肝心です。
多面的・多角的な学習評価で、学び続ける「主体」を育てる
現在10歳の児童も、将来は社会に出ていきます。例えば2030年。学校教育では、今から13年後の社会で役に立つ力を養わなければなりません。現在の「スタンダード」も、どんどん古くなっていきます。「小学校→中学校→高校→大学→大学院」といった段階的な教育を進めつつ、未知の事柄に対処する力などを、小学校の段階から養っていくことが必要になります。
一方で忘れてならないのが、学習評価です。評価をペーパーテストの結果にとどめるべきではないですし、挙手の回数やノートの取り方などの形式的な行動で評価すべきでもないでしょう。論述やレポートの作成、発表、グループでの話し合いなど、多様な活動におけるパフォーマンス評価の導入など、多面的・多角的な評価が必要です。
また、総括的な評価だけでなく、学習過程において「資質・能力」がどのように伸びているかを、日々の記録やポートフォリオを通じて確認しながら、子供たち自身も把握できるような仕組みが望ましいと考えます。
ここで認識しておくべきは、学校は、言うなれば一部の天才を伸ばすというより、大多数である、典型的でいわば平凡な児童生徒に、社会人として活動し、個人として幸せに生きる術の基本を育成する場所であるということです。才能が育つことを妨げることなく、大多数の児童生徒の学ぶ力の底上げをする場所なのです。たとえ天才でなくとも学び続ける「主体」を育てる教員であること。そのために学び続ける教員であること。これこそが、新学習指導要領が求める教師像なのです。