公開日:2024/10/25
GIGAは「つながるネットワーク」が前提
モニタリングでトラブル原因を特定する
―福井県―
福井県教育庁 教育政策課
GIGAスクール構想を支える無線LANネットワークの整備には「アセスメント(評価)」が欠かせない。福井県教育庁にアセスメントに対する考え方や取り組みを聞いた。
福井県教育庁 教育政策課
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拡張やアップグレードなしで安定したネットワークが実現
文部科学省から、GIGAスクール構想における「ネットワークアセスメント」の重要性が発信されています。
末永 ネットワークアセスメントは無線LANの健全性や対応性などを評価するもので、クラウドベースでの授業やGIGAスクール環境の安定運用には不可欠な取り組みと認識しています。さらに、学校現場でのタブレット端末などの使い方は日々進化しており、アセスメントも単発ではなく定期的に続けることが重要といえるでしょう。
文部科学省は2024年度補正予算でネットワークアセスメント実施促進事業を盛り込みました。福井県では、2022年度から独自にネットワークアセスメントを行っています。
そのアセスメントの過程で通信速度が上がらない事案が発生し、いろいろ調べてみるとネットワークで輻輳が発生しているらしいことが分かりました。その時にベンダーから、「無線LAN環境を安定化させる製品がある」と紹介いただいたのが無線通信可視化・安定化ソリューション『Tbridge®』(ティーブリッジ)でした。機能および導入後に負担するランニングコストといった費用対効果などさまざまな角度から検討した上で、実際に学校現場で試してみようとなったのです。
『Tbridge®』の試験導入はどのような流れで行ったのですか。
末永 試験導入では、生徒数が約800名で1人1台端末の利用率が比較的高い高等学校を1校選び、全員が Chromebook™ に一斉ログインして、YouTube™ を同時視聴してもらいました。これまででしたら生徒の半分くらいがつながらない状態になっていました。『Tbridge®』の導入前のアップロード速度(最大)およびダウンロード速度(最大)は380Mbps程度です。
しかし、『Tbridge®』の最適化をONにしたところ、ダウンロード速度(最大)が760Mbpsくらいまで跳ね上がりました(図1)。ベンダーも「見たことがない数値だ」と目を見開いていました。もちろん、各教室では生徒全員がスムーズに YouTube 動画を視聴できました。従来は外部回線への負荷が380Mbps程度だったが、『Tbridge®』導入後はそれが1・7倍や1・8倍にまで高まった。つまり通信速度の低迷は、校内ネットワークの内部処理が追いついておらず、データ通信を外部回線に流しきれていなかったことが原因と明確に示されたのです。
『Tbridge®』を利用すれば、無線インフラの拡張やアップグレードなしで安定した校内ネットワークが実現すると判断し、2023年10月に他の5校を含めた計6校に『Tbridge®』を導入しました。
『Tbridge®』を実際に運用した感想をお聞かせください。
末永 その後半年間にわたり定期的にチェックした結果、校内ネットワークから外部回線へのデータ流量は従来と比べ6校平均で1・4倍程度増えたと認識しています。ただし、学校現場からは特に反応はありません。私たちのところに要望がこない状態は、校内ネットワークに問題がなく、1人1台端末を活用した授業が円滑に行われているからと受け止めています。
このような成果を受け、2024年度はさらに20校に導入する予定です。県立の中学校は1校で高等学校併設ですので、2024年度からは、すべての県立高等学校に『Tbridge®』が配備されることになります。
国の予算措置を待つのではなく
与えられた条件で最善を尽くす
校内ネットワークの整備にはモニタリングも欠かせません。
末永 『Tbridge®』は通信状況を可視化し一定期間ログを習得することで原因を突き止め、改善が可能か検討する材料を与えてくれます。『Tbridge®』の導入以後は、教育庁にいながらリモートで各学校をモニタリングできるようになりました。ネットワークアセスメントやモニタリングは、トラブルの原因を特定するために実施。そして問題のある箇所が判明したらその他の正常な部分と切り分けて、そのトラブル解消にふさわしい対処を施していく。『Tbridge®』は、安定化機能によって輻輳時の通信ロスを軽減してくれるとともに、この「切り分け」の根拠となるデータを取得する手段と位置付けています。
今後、PCのスペック向上やデジタル教科書の本格普及でさらに多くの生徒が端末を利用するようになると、次は学校の「外」が通信量の増加に対応できなくなるでしょう。その段階では、外部回線の増強工事は避けては通れないとみています。ただし、この一連の流れは学校で1人1台端末が有効に使われるようになった証ですので、私は良いサイクルととらえています。
ネットワークがつながらず、授業や学級運営に必要な場面でPCやタブレットが使えないと、先生や児童生徒は端末の活用に距離を置いてしまうことが懸念されます。
末永 私たち教育庁もこの良いサイクルが続くように努力しなければなりません。教育インフラの整備担当として、先生や児童生徒に「ネットワークがつながらないから端末を使わない」と言わせてはダメです。もちろん費用との兼ね合いはありますが、国の指示や予算措置を待つのではなく、与えられた条件下でチエルやベンダーのような外部の方と協力しながら、普通に端末を活用できるネットワーク環境へ最善を尽くす必要があります。
福井県は元々教育に熱心な自治体で、GIGAスクール構想についても県を挙げて取り組んでいます。一部の学校から「ネットワークがつながりにくい」との意見があった時は、どのような使い方をしてもネットワーク環境が使えるようにとさらなる改善を徹底。トップから現場まで一丸となって、学校現場のネットワークアセスメントおよびモニタリングを推進しています。
ネットワークが正しく稼働していなければ、学校に配備されたPCやタブレットは単なる「箱」です。GIGAスクール構想は、つながるネットワークがあることを前提とした教育改革であることを忘れてはいけないと思います。
※Chromebook、YouTube は、Google LLC の商標です。
教育政策課
末永 宏樹 氏