公開日:2025/10/24

AIで拓く、生徒主体の「深い学び」

学校訪問「生田東高等学校が発信する未来型学びの実験室」

―神奈川県―
神奈川県立生田東高等学校

神奈川県立生田東高等学校では、「探究する姿」「協働する姿」「自ら学びを調整する姿」という「3つの姿」の実現を目指し、ICTを活用した教育を実践しています。その取り組みを通じて、生徒の主体性を引き出し、教員間の連携を深めることで、未来を生き抜く力を育む「深い学び」を追求している。

AIで拓く、生徒主体の「深い学び」
神奈川県立生田東高等学校

神奈川県立
生田東高等学校

〒214-0038
神奈川県川崎市多摩区生田
4丁目32-1

ICT利活用授業研究推進校として、ChatGPTやタブレット端末などを活用し、生徒の「探究する姿」「協働する姿」「自ら学びを調整する姿」を育成。

明確な教育方針とICT利活用の結合

 生田東高等学校の特徴は、「生徒の深い学び」の実現に向けて、明確な教育指針とICTの活用を結び付けている点だ。そのきっかけはコロナ禍での授業にあった。オンライン授業が急速に普及したことで、授業の在り方を改めて考える必要に迫られたのだ。どのように「生徒の深い学び」を実現させるのか、同校でのICTを活用した授業研究が始まった。

 研究を進める中でたどり着いたのが「探究する姿」「協働する姿」「自ら学びを調整する姿」が見える授業を実践していくことだった。また、これらの成果を測るために「3つの姿」を「見える化」できるようにした。教育の成果は抽象的で、単に成績が良いことだけでは測れないため、生徒の「3つの姿」が授業の中で「見える」ようにすることに重点を置いたのだ。

新しい授業を実践するうえで直面した新たなる課題

 ICTを活用した授業開発と同時に環境整備に取り組んだ同校は、2022年度には神奈川県から「ICT利活用授業研究推進校」、2023年度には文部科学省の「リーディングDXスクール生成AIパイロット校」に、さらに2024年度からは「DXハイスクール」の採択によってタブレット端末(iPad)や電子黒板などの導入、iMacを31台設置したLABO室の新設などハード面の整備を行っていった。

 環境を整備し、新しい授業を進めるようになったものの、ICT活用の推進にあたっては、変化を望まない、あるいはICT活用に苦手意識を持つ教員たちをいかに巻き込むかという課題もあった。特定の教員だけでなく、学校全体で取り組むためには、教員一人一人の意識改革が不可欠だという。さらに、校内全体のネットワークの整備も含め、ICTを「いつでもどこでも活用できる環境」を実現するための取り組みも必要だった。

課題解決に向けた多角的なアプローチ

 これらの課題に対しては、多角的なアプローチで解決を試みた。「自ら学びを調整する能力」を養うために生成AI(ChatGPT)の活用を始めた。まず、生徒が新たな問いを立て、生成AIが回答した内容をファクトチェックさせるようにした。これによって生徒が生成AIの回答を鵜呑みにせず、批判的に情報を評価できるようになったという。

 例えば、理科担当の松田恭平先生は、理科の授業でクラスを2つに分けて、一つのチームはChatGPTを使って「遺伝子組換え食品のメリット」について情報収集し、もう一つのチームは「デメリット」について情報を集め、そして互いにその情報を共有し合いながら、遺伝子組換え食品の必要性について議論するという授業を行った。最初は、生徒たちは生成AIの情報を無批判で受け入れてしまう傾向にあったが、使っていくうちに自分で学びを調整することができるように変化していったという。

 数学担当の秋山紀将先生は、「生成AIは、生徒が自分の考えを深めたり、他者と共有したりするための『対話の相手』としても機能し、表現が苦手な生徒が自信を持つきっかけにもなっている」と別の効能についても述べる。

 また、教員がICTを効果的に活用できるよう、組織的な研修も重視している。

 「事務連絡に偏りがちな教科会を、授業づくりを推進するためのグループとし、ICT活用方法を含めて実践例や困りごとを共有するなどして、教員同士の意見交換のきっかけづくりを行っている。特に研修では教材共有の容易さなどを通じて教師がICTを使ってみようという気持ちになるよう促しているのが良いようだ」(秋山先生)

 「紙媒体を使ってきた先生たちがICTに触れ、お互いのアイディアを共有するためのツールとして使い始めた結果、ICTツールが教員たちの間に徐々に広がっていった」(村田菜月先生)

 端末や授業支援システムなど、導入するツールは活用を強制するとうまくいかないため、その良さを知ってもらい、しっかりと根付かせることを意識したという。遠回りに見えるが、ベテランの教員が動いた時に全体の雰囲気がガラッと変わったそうだ。

 結果として、多様な授業実践が生まれており、教員たちは自身の授業を「聖域」とすることなく、互いのアイディアから学び、協働で授業の質を高めるカルチャーが醸成されている。

更新され続ける「3つの姿」とICT活用の深化

校内にはICTや生成AIを活用した授業づくりや取り組みについてまとめたポスターを掲示。
校内にはICTや生成AIを活用した授業づくりや取り組みについてまとめたポスターを掲示。

 生田東高等学校が目指す「探究する姿」「協働する姿」「自ら学びを調整する姿」の育成には、終わりがない。これらは、社会の変化に合わせて継続的にアップデートしていく必要があるからだ。

 ICTはあくまでも教育目標達成のための「単なるツール」に過ぎない。目指すべきなのは、生徒がAIを「文房具のように」自然に使いこなすことだと言えるだろう。

 今後は、深い学びにつながる実践の質をさらに高め、アナログとデジタルの棲み分けという課題を改善していくことが求められる。松田先生は、「指定校として蓄積してきたナレッジを積極的に県内の他の学校にも広げて共有し、発信していきたい」と意欲的だ。

神奈川県立生田東高等学校<br>教諭 研究ICTグループリーダー<br>秋山 紀将 先生

神奈川県立生田東高等学校
教諭 研究ICTグループリーダー
秋山 紀将 先生

神奈川県立生田東高等学校<br>教諭 研究ICTグループ<br>松田 恭平 先生

神奈川県立生田東高等学校
教諭 研究ICTグループ
松田 恭平 先生

神奈川県立生田東高等学校<br>教諭 研究ICTグループ<br>村田 菜月 先生

神奈川県立生田東高等学校
教諭 研究ICTグループ
村田 菜月 先生

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