公開日:2026/7/13
「選ばれる学校」へ。高等学校の学びを変える「N-E.X.T.ハイスクール構想」が目指すものとは
文部科学省
初等中等教育局 高等学校振興課 課長
寺島 史朗 氏
2040年の社会を見据え、高校教育のあり方そのものを問い直す「N-E.X.T.ハイスクール構想」。2026年2月にグランドデザインが示され、5月15日には全国からパイロットケースの申請が出揃った。学校自体を時代に合った魅力あるものへと変えていくこの大きな改革は、何を目指し、現場に何を求めているのか。
文部科学省 初等中等教育局 高等学校振興課長の寺島史朗氏に、本構想の背景から、育てたい人材像、それを実現する仕組みまで、お話を伺った。
「N-E.X.T.ハイスクール構想」が生まれた背景
今回打ち出された「N-E.X.T.ハイスクール構想」の出発点は、社会が大きく変わるなかで、高校教育もまた変わっていかなければならないという問題意識です。生徒一人ひとりの学びの選択肢を広げると同時に、選ばれる側である学校自体も、時代に合った魅力あるものへと変えていく必要があります。生徒への支援と学校の魅力化を一体で進めること、それが今回の議論の大きな流れになりました。
そのために措置されたのが、改革のための基金です。学校現場の魅力化や、時代に合った学びの選択肢の提供を後押ししていく。2040年という未来を見据え、そこで活躍できる人材をどう育てるかをターゲットに据えています。
AIやデジタル技術を中心に、産業構造も需給バランスも大きく変わっていきます。そのなかで、これまでのいわゆる文系・理系という枠組みだけでは対応しきれない将来像が予測されます。また、イノベーションを起こす人材、高度な専門人材、あるいはデータやAIを使いこなす「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」が求められる一方で、従来の仕事は減っていく可能性があります。教育の体制も、その変化を見据えていく必要があります。
ただ、変化は予測が難しく、いまある仕事がAIに置き換えられる可能性も否定できません。だからこそ、時代が変わっても対応できる「自ら考える力」や「主体性」を育てることが不可欠なのです。詰め込み型の教育や、特定のスキルだけを習得させる教育からの転換が求められています。
不確実な時代に向けて、育てたい力とは
教育には二つの面があると考えています。一つは、個人の人生を豊かにするための能力を育てること。もう一つは、社会の構成員として社会を支える力を育むことです。これらの二つが揃い、両輪として支え合うことで、人も社会も育っていきます。後者については、特定の産業に必要な人材をただ送り出す、社会にはめ込むということでは決してありません。自ら考え、解決策を見出し、多様な人々と協働する。そうした力を備えた人間を育てたい。これは学習指導要領の議論とも連動しています。
そして、学校教育だけですべてが完結するわけではありません。次の世代に育みたいのは、卒業後も自分で学び続けていける力です。2040年に通用する特定のスキルをあらかじめ与えるのではなく、その時々で必要な技能を自ら獲得していける―― そんな自立した学び手を育てることを目指しています。
学校教育と地域との関係は特に重視しているところです。地方では人口減少が進み、産業をどう維持するかが大きな課題になっています。地域に残り、地域のインフラや経済を支える人材を育てることは欠かせません。特に高校は、小中学校以上に地域や地域に根ざす産業の課題を解決する構成員に近い存在です。地域社会の形成者となる力を育てる役割が、これからますます求められます。
同時に、少子化で学校の統廃合が進む中でも、地理的なアクセスや多様なニーズへの対応は守らなければなりません。規模の小さい学校でも、テクノロジーを活用すれば多様な科目や経験を提供できる。多様な環境で学ぶことは社会的な責務であると同時に、イノベーションの源泉として経済的にも価値があります。投資家が多様性を重視する企業を評価するのと同じで、教育においても多様性は社会を強くする力になるのです。
高校の学びに求められる変革── 転換の中心となるのは「探究」
育てたい力が定まっても、日々の学びの中身が変わらなければ実現できません。これまで多くの高校では、ともすると大学入試に向けた学習に比重が置かれてきました。基礎学力を培う場として重要な役割を果たしてきたことは確かですが、自ら考え、社会と関わり、学び続ける力を育てるには、学び方そのものを問い直す必要があります。
その転換の中心に据えたいのが「探究」です。地域の伝統校であっても、受験勉強一辺倒ではなく、「探究」を通じて社会とつながるカリキュラムを描いてほしい。先ほどの地域人材の育成も、この探究的な学びと地続きです。「N-E.X.T.ハイスクール構想」は、財政支援の枠組みであると同時に、高校での学びの中身を変えていくための構想なのです。
今では、大学入学者のうち総合型選抜・学校推薦型選抜の占める割合が半数を超え、大学入試の形も大きく変わってきました。企業の新卒採用のあり方も変わりつつあります。教育の側も、社会の側も、これからの人材育成に必要な学びとは何かを問い直す時期に来ているのです。
これは、「GIGAスクール構想」の歩みとも重なります。1人1台 端末が入った当初は「端末を配ると遊んでしまうのでは?」といった声がよく聞かれました。けれども現場の理解と実績が積み重なるにつれて、その見方は確実に変わっていきました。「探究」や新しい学びの手法に対しても、同じように社会的な理解を深めていくプロセスが欠かせません。だからこそ、今回の改革を一過性のものにせず、丁寧に積み上げていきたいのです。
「高校の学びで『探究』を重視する」と言うと、途端に「基礎学力を軽視するのか」という声が聞こえてくるのですが、そこは誤解のないようにしたい点です。「探究」は、決して基礎学力を軽んじるものではありません。むしろ逆で、確かな基礎の上に立ってこそ、「探究」は本来の意味を持ちます。デジタル技術やAIを使う場面であっても、計算力をはじめとする基本的な力は不可欠です。発達段階に応じて、身につけるべき力をしっかり習得させる。その土台があってはじめて、生徒は自ら問いを立て、答えのない課題に挑んでいけるのです。
基礎学力と「探究」は対立するものではなく、地続きのものです。基礎を固めながら、その先で自ら考え、社会と関わり、学び続けていく――。その一連の流れを高校段階でかたちにすること。それこそが「N-E.X.T.ハイスクール構想」で実現したい学びの姿だと考えています。
全国の高校で学びの変革「N-E.X.T.ハイスクール構想」を実現するために
「N-E.X.T.ハイスクール構想」の中核に位置付けられるのが、パイロットケースとして先導的な学びの在り方を構築する高校、すなわち「改革先導拠点」です。各都道府県から国の審査を経て選出された高校がそれに当たり、それらを拠点として全域の改革を進めていくことになります。
今回いちばんお伝えしたいのは、教育委員会任せにするのではなく、都道府県の知事部局も含め、地域の産業界や大学が一体となって、その地域ならではのビジョンを描いてほしいということ。国から一律に指示するのではなく、地域の産業構造や課題に根ざした計画を、それぞれの地域の手で立ててもらう仕組みです。 ですから産業界との連携も、従来の職場体験のような浅いものを超えてほしい。企業と学校が常時つながり、地域の課題を生徒と一緒に解決していく。生徒が考えた解決策が実際に社会で実装されたり、起業につながったり ―― そんな深い連携を求めています。
交付金等による支援の対象は、必要な施設や設備への投資も含まれます。学びの空間を変えることは、生徒の行動や学びの質を変えるうえでとても重要です。ただし、単なる老朽化対策や施設改修ではいけません。「探究ラボ」や「デジタル対応の設備」など、新しい学びを実現するために必要な場や設備に限定すべきです。「この投資で学びがどう変わるのか」という目的が明確であることが大前提です。
予算の規模が非常に大きいだけに、これは大きなチャンスであると同時に、社会からの大きな期待を背負っているということでもあります。もしこの機会を活かして高校教育を変えられなければ、社会から厳しい評価を受けるでしょう。教育委員会や関係者の皆さんには、これまでの延長ではない、思い切った施策を実行していただきたいと思っています。
現場から「忙しい」「理解が難しい」という声が上がることも承知しています。それでも、将来の生徒のために変革は必要です。ぜひ一緒に進めていきましょう。
最後に
交付金については、令和9年度(2027年度)を目標に議論を進めています。単発の資金ではなく、都道府県全体への展開や下支えを含め、中長期的に改革を支える仕組みにしたいと考えております。いずれも「ワンショット」ではなく、改革を継続的に支える設計を目指しています。
高等学校から大学・大学院へと続く教育課程も、分断せず一体的に改革する必要があります。中でも高校は、社会や経済と密接に関わる重要な段階。だからこそ、ここを起点に連続性のある改革を進めたいのです。
そして、こうした改革の先に育っていくのは、2040年の社会を生きる子供たちです。彼ら彼女らに、自ら考え、社会と関わり、学び続けていく力を手渡していくこと。それが、私たち大人の責任だと考えています。
〜2040年に向けた「N-E.X.T.ハイスクール構想」〜(文部科学省 2026年2月発表資料より)