ICTを活用したディスカッションと 個別のアドバイスで先生の背中を押す

教員養成の今 GIGAスクール時代の教員研修の高度化とデータ利活用

奈良教育大学 教職大学院
小﨑誠二准教授に聞く

奈良県では、学校と県教育委員会と大学が連携して、教育の情報化の推進や教員研修の高度化に取り組んでいる。その背景と今後の展望を奈良教育大学 教職大学院の小﨑誠二先生に伺った。

大学教員という新たな立場で教育の情報化を推進

 私は、2021年4月に、奈良県教育委員会から奈良教育大学 教職大学院に転職しました。現在の仕事は大きく3つです。1つ目が「先生の先生」という仕事です。本学では、学生のほか、現職教員に教育DXや教育の情報化などについて学ぶ場を提供しています。2つ目が「先生の先生の先生」という仕事です。指導主事や学校管理職対象の研修の講師や学習会で助言しています。

 3つ目が、国と県と市町村と学校と先生をつなぎ、県域一体で教育情報化を推進する仕事です。高等学校の国語科・情報科の教員として20年勤務し、県教育委員会の主幹時代には、奈良県域GIGAスクール構想推進協議会を立ち上げ、事務局長として環境整備を担当した経緯から、今も学校の支援をしています。

 大学教員になっても教育委員会や学校と連携が密にできるのは、奈良県では学校と教育委員会と大学の関係がとても近いからだと思います。2014年に文部科学省が公表した「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」における「都道府県別 教員のICT活動指導力(全校種)」の項目で、奈良県は47都道府県中の最下位でした。この結果に危機感を抱いた県教育委員会は、先生がICTに親しみ、日常生活でも学校教育でも活用できる環境整備を、県がリードして進める必要があると考え、各種のICT企業と包括ライセンス契約を締結。2015年には県教育委員会、奈良教育大学、民間事業者で共同調達のための協議会を立ち上げるなど、自治体の垣根を越えた組織作りをしてきました。

 そして、県域の連携が、文部科学省が2019年12月19日にGIGAスクール構想を公表した際に生かされました。公表4日後の12月23日には、吉田育弘県教育長が呼びかけて臨時教育長会を開催し、全市町村が参加して推進することを確認。4月には、県内の国公私立学校で同一ドメインによるG Suite for Education(現:Google Workspace for Education)が利用できる環境を整えて、すべての教職員と児童生徒に県域公用アカウントの付与を可能にしました。

 県が主導した一括整備、共同調達、情報交換を進める組織作りは、文部科学省の後押しもあって、「県域モデル」として話題になりました。推進する時に反対意見はなかったのかという質問もよく受けますが、私は、学校と教育委員会とが対立する事態は避けたかったので、うまく進まない時や揉めそうな場合は「文部科学省が都道府県レベルでの共同調達を推進しているという国の方針を前面に出す」ことや、「県の方針だから仕方ないと説明してください」と説得し、トラブルだらけでしたが、大きな揉めごとはなく進めることができたように思います。

 2022年の秋に、ある中学校で国語の授業をする機会をいただきました。授業の初めに「私がこれから話したり板書したりする内容を、誰か Google フォームで選択テストを作ってくれませんか。その人はノートをとらなくていいです」と呼びかけると、4人の生徒が手を挙げてくれました。授業中、4人は私の話を聞きながら、黙々と端末に入力しています。授業の中盤で確認すると、16問作っていましたので、みんなで解きました。「この問いはいい質問だよね」「この正解は実は間違っているよ」などと指摘したり解説したりしながら楽しみました。授業の終わりに今度は私が作ったテストをしたところ、全員が満点をとりました。

 これは大学の授業や教員研修でも使える、と思った私は、授業中や研修中に話している内容をテストにするスタイルで何度かチャレンジしました。振り返りのアンケートも不要になります。ペーパーレスだし、時間の節約にもなります。研修後には、「自分の授業でも Google フォームを使ってやってみました」などの連絡をたくさんいただくようになりました。

 これは、今の教育が目指す「個別最適の学び」のデジタル活用モデルです。学校の授業は「指導者の話を聞くこと」も大事ですが、「学習者が自分で学びとるように仕向ける」ことが何よりも大切です。それに必要な環境=インフラとして、インターネットやそれを利用するための1人1台の端末が必要です。特に教員研修は「講師の話を聞いて納得して終わり」ではもったいない。その場でICTを活用してディスカッションを行い、受講者がまさに人やICTのネットワークを使って学ぶ。それが、教員研修の高度化のスタートだろうと感じています。

 多くの先生は、「もし自分がこんなことができるならこんな授業をやってみたい」といったアイデアを持っています。新しいことに挑戦している授業もたくさんあります。ただ、それでいいのか、という不安を抱いている方も少なくないようです。私が参加を求められる教員研修の多くは、「授業の評価をしてほしい」ではなく「私の授業の感想が聞きたい」なのです。これまでたくさんの授業に立ち会ってきた経験に基づいたWeb資料と、その場のディスカッションを通じて、その先生がご自身では気付いていないアイデアの素晴らしさを指摘することや、もっともっとチャレンジしていいと思いますと個別に背中を押すのが私の役割だと思っています。

 これからの教員研修のキーは動画ではないかと思っています。決められた日時と場所に、指定された顔なじみのメンバーが集まって有識者の話を聞く研修は、新しい知識を得ることができるし次のアクションにもつながるけれども、その場にいなかった人には広がりにくい。その点、オンデマンドの動画は、学びたい時に、学びたい場所で、学びたいテーマを選択し、必要な時に繰り返して視聴できるメリットがあります。

授業力を勤続年数ではなく「授業担当実数」で測ってみる

 現在、私は、教育データの利活用の研究にも力を入れています。例えば、飛行機のパイロットは総飛行時間で技量をある程度推し量ることができます。外科医師の手術回数も同様ではないでしょうか。教員の場合、今は勤務・勤続年数がありますが、経験年数が長いほど安心だとはなりません。

 GIGAスクール構想がスタートして見えてきた、教員や児童生徒の情報活用能力の差は、勤続年数とはほぼ関係なさそうです。学生の実習を見ていて、指導者が満面の笑顔で一生懸命説明しているのに、生徒はあまり集中できていないことがあります。教壇で奮闘している指導者が裸の王様のように見えた時、教員養成に関わる者としての課題を突き付けられます。

 現在の学習指導要領では、高校で「情報Ⅰ」が必修になり今の高校2年生からは、全員がプログラミングを学びます。プログラミングの経験の有無で、10年後、20年後、何かが変わっているのでしょうか、何も変わらないのでしょうか。

 そこで私は、教員としての力量=授業力を測るための基準の一つとして「授業担当実数」に注目しています。同じ勤続年数なら、授業担当実数が多い教員のほうが、情報活用能力が高いかもしれないという仮説です。授業の動画を撮ったり先生方にヒアリングしたり個別のアドバイスをして、先生の背中を押す研究を進めようと思います。

研修と指導力の自己評価の関係性

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