共同編集機能を使った「中途の共有」と「大きな目標」を意識した挑戦の継続を

1人1台時代の先生に贈る、東京学芸大学 教育学部 高橋純教授のアドバイス

東京学芸大学 教育学部高橋 純 教授

1人1台時代になり、あらゆる教科で子供たち一人ひとりの学習理解度に合わせた授業が可能になりました。長年、愛知県春日井市の指導助言に携わっている東京学芸大学 教育学部の高橋純教授に、子供たちが主体的に学ぶ授業づくりのアドバイスをいただきました。

東京学芸大学
教育学部
高橋 純 教授

ICTをうまく使うヒントは「体育の跳び箱の授業」

 授業でICTをうまく使うにはどうすればよいですか――。多くの先生からこの質問をいただきます。児童・生徒の授業中のリアルタイムな実態把握から始めてみましょう。そのヒントは、体育の跳び箱の授業です。

 小学校で「8段跳ぶ」という目標を掲げたとしましょう。先生は、体格や日常行動から各児童の運動技能がおおよそ分かりますので、最初の授業でいきなり全員が8段跳べるとは考えません。3段、5段など低めの跳び箱も用意しておきます。子供はいくつかの跳び箱を試して今自分が跳べる段数を確認し、周りの友達からコツを聞き、8段クリアを目指します。

 一方、一目で分かる運動技能とは異なり、児童・生徒一人ひとりの頭の中、つまり学習理解度をリアルタイムに把握するのは難しい。そのため、かつての国語や数学、英語の授業などでは、先生は子供たちの理解度が一律ではないと分かっていても、一斉指導で臨まざるをえませんでした。

 しかし、GIGAスクール構想で授業風景は大きく変わりました。1人1台時代になり、あらゆる教科で子供たち一人ひとりの学習理解度を自在に把握できるようになったのです。

 先生の端末から配信された資料について、子供たちは手元の端末で Google Jamboard™ や Google ドキュメント™ に自分の意見を書き込んでいきます。友達の書き込み内容を見て、自分の考えとの違いに気づく。必要に応じて対面で相談したり教えてもらったりできます。前述の「体育の跳び箱の授業」のように、子供たちはICTツール経由で自らの課題に気づき、周りの友達と協働しながら自分のペースで学んでいきます。

 長年、先生方がやりたくても実践できなかった児童・生徒一人ひとりに合わせた授業、子供が「主体的に学ぶ」授業、それが1人1台の実現で、一人ひとりを主語にした教育ができるようになったのです。

友達の意見や作業を見て、主体的な学びを追求する

 このような1人1台時代=子供一人ひとりが主体的に学ぶ時代であることを踏まえると、冒頭の「授業でICTをうまく使うには?」との問いには、2つの答えが考えられます。

 一つは「中途の共有」です。ICTやアプリを積極的に活用することによって、先生や子供の意思で自在に、リアルタイムに、学習の中途を共有・把握できます。このキーワードの代表例として注目しているのが、愛知県春日井市立藤山台小学校です(『チエルマガジン』2022 Spring/Summer号掲載。記事はこちら)。

 本事例で紹介している授業では、先生は教壇に立っていません。司会役を買って出た2人の子供が「今日は、前時までに学んだことを踏まえて、日本が条約改正に成功した理由を考えます。そのために必要な情報やどう学習するかを話し合ってください」と説明すると、子供たちは慣れた様子で学習に取りかかります。教科書を見直す児童、ネット検索をかける児童、Google Jamboard で共同編集しながら友達と情報を整理するグループなど、まさに十人十色です。

 学習の主導権は子供が握っています。一人ひとりが課題を持ち、自分のペースで学習を進行。時には対面で話し合い、時にはクラウド上で友達の学びを参考にします。そして先生が毎時間配布する Google スライド™ をノート代わりに学びの成果をまとめます。ICTの共同編集機能を活用し、友達の作業の「中途」を見て、刺激を受け、それを参考に自らが主体的・対話的な学びを追求していく授業と言えるでしょう。

立ち位置を理解した上なら少々失敗しても大丈夫

■授業でICTをうまく使うには?
■授業でICTをうまく使うには?

 授業でICTをうまく使うもう一つのキーワードが「大きな目標への立ち返り」です。1人1台端末をベースにした授業は前例がないので、どんなやり方が正解かは誰にも分かりません。子供の学年、教科、学校を取り巻く地域的環境によっても異なるでしょう。つまり、「これさえやればOK」といったマニュアルやハウ・ツーを求めても存在しないのです。

 今の時代は先生自身がICTを使っていろいろな授業を試してみることが大事です。試してダメならやめればいい。試行錯誤を積み重ねていくうちに、自分のクラスに合った使い方が見えてきます。GIGAスクール環境を楽しみながら模索してみましょう。

 こう言うと、「それぞれの先生が好き勝手に自分のやり方を試していては、学校内で収拾がつかなくなる」と懸念する方がいるかもしれません。そこでポイントとなるのが「大きな目標への立ち返り」。具体的には、1人1台環境の授業の研究では、「この方法は学校教育目標に沿ったものだろうか」「一人ひとりの子供が主語となる学びになるか」と常に問いかけ直すのです。立ち位置さえきちんと理解した上での挑戦であれば、少々失敗したとしても、次につながるものと考えてまた挑戦すればいいと思います。

多様性とまとまりが共存する子供や保護者に魅力的な学校

 愛知県春日井市立高森台中学校では、1人1台端末やクラウドの整備が完了した際、「これからは自分で問題を発見し、解決できる力を育成しよう」との目標を掲げました。この「問題発見・解決能力を育む」という大きな目標の下、例えば3年生の数学科の授業では前半は教科書を見ながらみんなで解き、後半は先生が用意した難易度別の複数の問題から選択し、個別に学習します。担当教員は「自分の現在地を客観的に把握して、自分に合った方法で学ぶ『学び方』を習得させたい」と話します。

 「問題発見・解決能力を育む」との大きな目標は、社会科の授業でも土台を成しています。まず教科書を読んで四大文明について学び、それぞれの特徴を Google Jamboard で整理、それを踏まえて自分なりの「問い」を立て、チャットに投稿します。友達の「問い」に触発されて、新たな「問い」が生まれる循環。授業の最後には各自一つの問いを選び、次時以降、追究します。このような自分なりの問いを見つける継続的な工夫の結果、今では先生に言われたからやるのではなく、一人ひとりが問題発見・解決できるようになりました(記事はこちら)。

 1人1台時代の学校は、世界各地に拠点を構えるグローバル企業と似ているかもしれません。グローバル企業では国籍や人種や考え方が異なる従業員が、自分が良いと思ったやり方で仕事をしています。それでも競争力のある製品を提供できるのは、経営理念など「大きな目標」の下で日頃のビジネスに取り組んでいるからです。

 これからの学校は、各先生が1人1台環境を生かすべく創意工夫したいろいろな授業スタイルが併存するようになるでしょう。しかし学校が掲げる学校教育目標などの「大きな目標」に常に立ち返ることで、多様性がありながらも一つの学校としてのまとまりもある、子供や保護者にとって魅力的な場所になるはずです。

*Google Jamboard、Google ドキュメント、Google スライド は、Google LLC の商標です。

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