公開日:2009/1/29
第3回:外国語活動は、小学校だけが頑張るのではなく、社会全体で支えよう!
小学校の「外国語活動」、いよいよ全国でスタート!
〜いま、小学校、教育現場、そして社会は何をすべきか〜
小学校の「外国語活動」について、文部科学省初等中等教育局教育課程課・教科調査官の菅正隆先生に、独立行政法人メディア教育開発センター・准教授の堀田龍也先生が緊急インタビュー。第3回の今回は、小中連携や教育委員会、学校長がすべきことについて話していただいた。
必然的に、中学校の英語教育も変わる!
- 聞き手:堀田龍也(独立行政法人メディア教育開発センター・准教授)
堀田 小学校と中学校との連携はどのように図られるのでしょうか?
菅 私は小学校の先生に向かって「頑張ってください」とは言いません。小学校の先生は、今まで通りでいい。頑張らなきゃいけないのは、実は中学校の先生なのです。小学校で様々な体験をして英語への興味や関心が高まったのに、中学校に上がった途端「ハイ、単語50回書いて覚えなさい」と今まで通りの教育をしたのでは、英語嫌いの子どもを作ってしまいます。中学校でも、子どもを活かす活動を取り入れなければなりません。ここが一番大切です。
堀田 中学校の英語教育も変わる必要があるんですね。
菅 今までの中学校英語は、「読む・書く・聞く・話す」という4つの能力を全部伸ばしながら、同時に子どもの意欲や関心も向上させなければなりませんでした。でもそれは、無理があった。そこで、意欲や関心は小学校の外国語活動で伸ばし、その土台の上に中学校で英単語や表現といったスキルを上積みしていくようにしたのです。そのために中学校の英語科の時間数も、週3時間から週4時間に増やしました。国語教育が必要だ、理数が大切だと言われていますが、全教科の中で英語の時数を最も多くしたのです。小学校で培った英語への興味や関心を引き続き中学校でも伸ばしつつ、英語力をつけてほしいと願ってるのです。
堀田 チエルでは、CALLシステムやe-Learningなどで中学・高校・大学に多くの導入実績があり、小学校向けのフラッシュ型教材を提供するなど、英語教育におけるICT活用を推進していますが、今後はさらに授業でのICT活用ニーズが高まっていくでしょうか?
菅 授業だけでなく、家庭学習でもICTが使われるようになるかも知れません。中学、高校で英語力が伸びない原因の一つに家庭学習の不足が挙げられますが、英語教材ソフトなどのICT教材を家庭学習で活用すれば、子どもの学習意欲を刺激し、同時に学校の授業とリンクさせて学びやすくなるのではないでしょうか。
教育委員会や学校長がすべきことは、物心両面のサポート
堀田 教育委員会や学校長は、何をすべきでしょうか?
菅 物心両面のサポートですね。まず、保護者の方々の「誤解」を解く。「小学校で英語活動が入ると、子どもは英語を話せるようになる」という保護者の誤解を、まず、是正してほしい。また、すぐに結果を求めず長い目で見てほしいと、保護者に説明してください。「小学校でこれだけ話せるようになった!」となると、保護者は喜ぶでしょうけれども、言語力は、長期間かけて育んでいくもの。小学校は、土壌を耕して種を蒔く時期なのです。その後、中学校で水をあげて肥料をやり、芽が伸びていって、大学や社会人になってから、花が開いて実がなって、ようやく収穫できるようになるのです。種を蒔いたばかりなのに、それをすぐに刈り取ろうと思ってはいけません。
また教育委員会にも、人やモノの支援をお願いします。ICT教材やALTの導入です。ただし、ALTを増やせばよいというものではなく、人材をしっかり見極め、指導し、研修していく必要がありますね。
今回は、「最初の半歩」を踏み出したばかり
堀田 外国語活動には、教育関係者だけでなく、一般の方々も強い関心を寄せています。一般の方々に伝えたいことは何でしょうか?
菅 国民の間には、今でもいろいろな意見があります。「小学校で英語を教える必要はない。それよりも国語が大事だ」「英語を専門としない先生が教えると、間違った英語を覚えてしまうのでは」「英語は中学校からでいいじゃないか」という反対意見はもちろん、賛成意見の中にも「この程度の学習内容では、全然力がつかない」「もっと低学年からやるべきだ」など、百人いれば百通りの考え方があります。そういう様々な意見を考慮し、あらゆるケースを検討して、「これが、今できる最適な教育」という判断で始めたのが、外国語活動なのです。全員が満足してはいないと思います。むしろ不満を持っているかもしれません。しかし、これは最初の一歩、いや半歩なのです。
日本には、「子どもは小さく産んで、大きく育てましょう」という格言がありますよね。外国語活動も、同じです。いきなり大きなことをやり始めるのではなく、まずは小さなことから始めて、少しずつ、段階を踏んで、育てていきましょうという考えなのです。
今回は5・6年生での実施となりましたが、成果が出たら、「3年生からやらせてみるか」「英語科にするか」などの次の段階の方策を議論すればいいのです。まだ最初の半歩を踏み出したばかりなのに、「将来はどうなるんですか?」と気にする声がとても多い。まだ一歩も進んでいないんです。
まずはスタートして、みんなで育てていきましょう。教員だけでなく、保護者や社会がいっしょになって、この外国語活動を育てていきましょう。22年間かかって、ようやく最初の半歩を踏み出したのです。踏み出したことに、今は意義がある。小さな半歩ですが、大きな半歩です。
国民全員で考えながら、外国語活動を育てていきましょう。見守りながら、育てていただきたいと思います。小学校の先生がやりやすいように、我々もサポートしますし、みなさんもサポートしてほしいと思います。
堀田 「小学校の外国語活動」は、見守りながら育てていく…国民的な課題、ですね。
長時間にわたり、ありがとうございました。