公開日:2013/11/27
第1回「タブレットPCをいかに授業で活用するか〜チエルが韓国・ハンビット初等学校との共同研究を開始
教育分野におけるICTの活用が進むなか、先行的な取り組みで世界の注目を集める韓国は、2015年までにすべての学校でのデジタル教科書の使用を目指している。チエルは2013年7月、タブレット対応の授業支援システム『T-CAT(Tablet Computer Assisted Tool)』を韓国のハンビット初等学校(京畿道坡州市)に導入し、玉川大学教職大学院・堀田龍也教授と富山大学人間発達科学部・高橋純准教授のコーディネートによる共同研究を開始した。
韓国における『スマート教育推進戦略』とは?
韓国では2011年6月、日本の文部科学省に相当する教育科学技術情報部と国家情報化戦略委員会により『スマート(SMART)教育推進戦略』が発表された。スマートとは、次の学習方法を軸として、教育の環境や内容、方法といった従来の教育体制を刷新しようというもの。
S…自己主導的な学習方法(Self-directed)
M…動機づけられた学習方法(Motivated)
A…学習者に合わせた学習方法(Adaptive)
R…豊富な資料を持った学習方法(Resource enriched)
T…ICTが埋め込まれた学習方法(Technology embedded)
この戦略は、21世紀型スキルを強化するため、2015年までにすべての小中高校にクラウドコンピューティング技術を基盤とする教育環境を整え、ネットサーバーに教育用コンテンツを保存して、必要なときに使えるようにするというものだ。同年までにはすべての教科書がデジタル教科書に変わり、教科書の内容だけでなく参考書や問題集、辞典、ノート、マルチメディア資料などの機能も連携させる。
戦略には、次の6つの課題が盛り込まれた。
①デジタル教科書開発および適用
②オンライン授業活性化
③オンラインを通じた学習診断体制構築
④教育コンテンツの自由な利用および安全な利用環境整備
⑤教員のスマート教育実践力強化
⑥クラウド教育基盤整備
これらの課題に対して総額2兆2280億ウォン(約20兆円)を投じる計画であり、2015年までに国家教育競争力で世界10位入りを目指し、2025年には3位までに入ることを目標として掲げている。
均等な教育機会の提供を可能に
韓国における教育の情報化は早くも1980年代より政府主導で始まった。20年にわたって段階的に進められ、初等・中等教育から高校、大学、生涯教育にいたるまで、情報共有システムやe-Learning環境、デジタル教科書開発支援体制の構築、インフラ整備など、産官学が一体となり、世界でも屈指の取り組みを行ってきた。その結果、OECDによる「2009年生徒の学習到達度調査(PISA)」のデジタル読解力調査によれば、韓国は世界1位という結果をもたらした。
このたびの『スマート教育推進戦略』に際しては、すでに1996年からデジタル教科書の開発を進めており、2007年から小中学校での実証実験を始め、全国の多くの学校でデジタル教科書を活用した授業を行ってきた。デジタル教科書導入の主な目的として、子どもたちが自主的に学べる環境を構築することや、紙を使わないことによる地球環境対策などが挙げられる。なかでも近年の韓国では不況やリストラなどによる所得格差が広がっており、デジタル教科書の導入は、子どもたちが塾へ行かなくても自力で学ぶことができ、教育費を節約できるといった「均等な教育機会」の提供を可能にするとしている。
ソウル市では2011年に新規開講した小学校、中学校、高校から各1校を「スマートラーニング研究学校」に指定し、校内に「スマート教室」を設け、仁川市でも従来のデジタル教科書研究学校を「スマート研究学校」とした。
普通教室でいかに活用していくかを実証研究
このたびの共同研究を行うハンビット初等学校は、京畿道教育庁指定の革新学校である。革新学校では、創意的教育や生徒主導的教育などを目的として、1クラス25人以下の少人数で授業が行われている。ハンビット初等学校では、普通教室でどのようにタブレット端末を活用して授業を行うことができるかを実証研究し、データ収集・分析を行う。
すべての先生がすべての普通教室で日常的にICTを活用できるようになることは、これからの日本における教育ICTの課題である。そこで、スマート教室を備えたスマート研究校での研究は行わず、普通教室での活用を実証研究するという点がこのたびの研究の主題となっている。これは、日本における次の学習指導要領を見据えた研究事業である『フューチャースクール推進事業』や『学びのイノベーション事業』をいかに進めるかを視野に入れた研究となる。日本では現在、これらの事業を受けて「一人1台の情報端末」の整備を進めようとしており、そのために必要なデジタル教材の開発や教員の指導力向上のための研修なども各自治体で始まっている。
このような状況下で、チエルは今年6月、普通教室でのICT利活用を支援するタブレット対応の授業支援システム『T-CAT』を、日本市場に先駆けて、教育ICT分野の先進国である韓国で販売を開始した。そして、ハンビット初等学校において、タブレットPCやソフトウェアがどのように授業で活用され、学力向上や授業改善につながるのかを研究し、その成果を2014年発売予定の日本国内向け仕様のタブレット対応(Windows8、iPad対応)授業支援システム(日本製品名未定)の製品企画やマーケティング活動に活用していく。
※チエルマガジンでは、今後も共同研究の内容を情報発信してまいります。次回は、ハンビット初等学校の視察団が、フューチャースクール実証校の一つである広島市立藤の木小学校を訪問した模様をお伝えします。
次回は12月4日[水]の掲載予定です